気が多くてもいい。なぜ、すずかんはタクトを振り続けるのか|鈴木寛 #30UNDER30

鈴木寛


IT時代の幕開けとともに

1995年、僕にとって第2の人生の始まりが訪れます。1月に阪神淡路大震災があり、ふるさとの神戸が大打撃を受け、父親も被災しました。そして3月には、オウム松本サリン事件が起こった。30歳だった僕は山口県に出向していたけれど、通産省がある霞が関の駅で事件が起きたことに衝撃を受けました。もしかしたら自分も被害にあっていたかもしれない、と。

その年の6月ごろ、出向先の山口県から通産省に戻り、ITとノンバンクの担当をすることになります。そして夏には自主ゼミとして「すずかんゼミ」を立ち上げます。当初の話題はもっぱらインターネットやNPO、ボランティアの話。最初は東大生を中心に8人集まったんですが、徐々に広げてSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)生もよく来ました。

ヤフーCEOの川邊健太郎さんも学生時代に来ていましたね。ちょうど秋にWindous 95が発売され、IT時代の幕開けとも言える年でした。山口時代に松下村塾に20回ほど足を運び、「若者が本気を出せばなんでもできる」という思いがあって学びの場を作りたくなったんです。

毎週の土曜に赤坂に集まって、そのまま朝まで飲みながら語り明かしていました。インターネットの、社会を変えるツールとしての哲学的な可能性を探っていました。関西でもゼミを立ち上げ、2000年にNPO法人ドットジェイピーを設立した佐藤大吾さんが塾長をしていました。関東でも関西でも、あっという間に若者100人が集まるようになった。

すずかんゼミは25年近く続いていますが、「情報社会におけるソーシャルプロデュース」というテーマは一貫しています。最初は有志が集まる自主ゼミでしたが、僕が慶應義塾大学の助教授や東京大学の非常勤講師になってからも、各大学でインカレのゼミにして、どんな学生も来られるように広く門戸を開いています。

 フィロソフィーは何か

すずかんゼミに所属する人のフィールドは多岐に渡りますが、メソッドは共通しています。それは、企画の立て方として編み出した「PCCP」というフレームワーク。フィロソフィー、コンセプト、コンテンツ、プログラムの略なんですね。

特に「自分の人生の中で変わらない軸」や「最も大切にしたいバリュー」を指すフィロソフィーが大切です。それがあるからこそ、実現したいことがあり、プロジェクトをやる意義がある。

プロジェクトを始めたら、すぐにいろんな問題が起きて、板挟みの状態になります。時間が足りない、人材が足りない、お金が足りないって。すると当然、優先順位をつけたり、トレードオフをしたりしなければなりません。その時にフィロソフィーが決まっていないと、うまく対処できず、失敗してしまうんです。

それはまさに大学時代や20代の頃、僕自身が直面した問題なんです。なんでこのプロジェクトは、うまくまとまらないんだろう、どうしたらまとまるのだろうと。試行錯誤する中で、最も核となる部分をはっきりさせれば、「ソーシャル・オーケストレーション」ができると分かりました。
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文=督あかり 写真=小田駿一

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