思い出したのは、2006年7月に平壌を訪れた時、宿舎の高麗ホテルでの出来事だ。夜、北朝鮮の案内人と一緒に黒ビールを飲みながら、ドイツW杯の録画中継を見ていた。案内人は私との会話に集中できないようで、しきりにテレビ画面に視線を移している。「北朝鮮の人って、サッカー好きなんだな」と改めて思った記憶がある。
スポーツによる国威発揚に力を入れる金正恩朝鮮労働党委員長も、サッカーに目をつけてきた。北朝鮮は1966年、イングランドW杯で8強入りした歴史を持つ国だから、国内の関心も高い。
2013年5月に平壌国際サッカー学校を開校させ、人気と実力を兼ね備えたサッカーの育成を重視してきた。2017~18年には、それまでは毎年3~11月の開催だった北朝鮮プロサッカーリーグが初の通年開催に踏み切った。13チームが参加。ホーム・アンド・アウェー方式で毎週土、日曜日に試合を行い、上位2チームには翌年のAFCカップの出場権が与えられるといい、なかなかの盛況ぶりだという。
政治との縁は切れないらしい
さて、ではスマホには、サッカー以外、どのような種目の映像が提供されているのだろうか。これも、北朝鮮らしいと言えば北朝鮮らしい。
答えは、バレーボールと卓球が13種類ずつだった。いずれも、北朝鮮当局がスポーツを振興する際に、必ず「望ましい」として推奨する種目だ。
脱北者の知人によれば、卓球は1970年代、北朝鮮のお家芸の一つだった。知人は「世界選手権で優勝したこともあった」と誇らしげに語る。また、バレーボールは、職場で簡単に楽しめるスポーツとして人気がある。よく職場ごとで、休憩時間などにバレーボールを楽しむ姿がみられるという。
北朝鮮を研究している米専門家グループが2017年4月、北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)豊渓里(プンゲリ)にある核実験場付近の衛星写真を分析したところ、管理施設の近くなどでバレーボールの試合とみられる様子が写っていたと発表したことがある。この専門家集団は「バレーボールの様子を撮影させて、核実験保留のシグナルを送っている可能性」に言及した。知り合いの脱北者はこのニュースを聞くと、「考えすぎ。どこの職場でも見られるありふれた光景」と大笑いしていた。
スマホのその他の映像は、五輪の名場面や金正恩氏が好きだと言われるバスケットボールなどだった。
スポーツを通じて世界を知ることができるのは良いことだけれど、やっぱりどこまで行っても、かの国では政治との縁は切れないらしい。