ただ、ところどころに生活感も垣間見える。わんぱく盛りの子どもたちの仕業だろう。玄関脇の下駄箱は開けっ放しで、靴が覗いていた。
「上の子がティーンエイジャーになってベビーのころより手がかからなくなったけど、一緒にいる時間は大事。いまも夜8時には仕事を切り上げて帰ります。仕事を持ち帰ることもありますよ。子どもたちがいるから、キッチンが私の仕事部屋」
外資系エグゼクティブは、仕事とプライベートを明確に分ける印象がある。しかし、インタビューの場所を会社ではなく自宅に指定するなど、エドマンにとってワークとライフはシームレスのようだ。日本生まれで、父親は「ステラおばさんのクッキー」を展開するアントステラの創業者。母親も手伝いをしていて、家ではビジネスの話が当たり前のように飛び交っていた。
「夕食のときに、『こういう味のクッキーはどうだ』『どっちが美味しい?』と試食したり、社員についてああだこうだ言ってみたり。物心ついたときからそんな環境でしたね」
大学を卒業後は外資系の玩具メーカーを経て、父の会社へと転職。新規事業部に入って、Eコマースをゼロから立ち上げた。ウェブデザインからコールセンター、物流のオペレーションまで、すべて自分で手掛けたことで、ビジネスへの興味をますます募らせていった。
結婚を機に、夫の母国スウェーデンに移住。新たな挑戦の場として選んだのは、同国発のファストファッションブランド、H&Mだ。
これまで理想としていたのは、トップダウンでみんなを引っ張る父親のようなリーダーだった。しかし、H&Mで働いて、別の形のリーダーシップもあると気づいた。
「店にいたとき、急に雨が降り出してきたんです。日本なら、まずマネジャーに確認して、傘を店頭に並べますよね。でも、スタッフは許可を取らずに『いいじゃない。いま雨が降ってるんだから』と並べていく。組織がフラットで、あくまでもマネジャーはチームのまとめ役。だから一人ひとりがオーナーシップを持って働けるのだとわかりました」
いい意味でのアバウトさも、この時期に身につけた。H&Mに入社した初日、いきなり予算の策定を命じられた。期限は、1時間後。MBAで習った手法で分析すれば、少なくとも数日かかる。仕方がないので重要なポイントだけ分析して1枚にまとめて提出したら、あっさり通った。
「重要な20%にフォーカスすれば、80%の結果につながります。いままで100%を目指して時間をかけていた自分は何だったのかと」