資本市場に「社会性」を持ち込む 「ソーシャルIPO」が目指す世界

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リーマン・ショック以降の企業の社会的責任論や、国連のSDGsなどを通じて、社会性や持続可能性に対する企業の問題意識は飛躍的に高まっている。そして、その最先端にあるのが、ライフイズテックに代表される収益性と社会性の実現を同時に目指す社会的企業なのである。

そもそも株式会社は、一人では実現できない事業を多くの資金と人を集めて行う仕組みであり、その目的はより良い社会を作り上げ、人々を幸せにすることにあるはずだという問題意識が、その根底にある。

ところが株式市場の現状を見ると、株価は、ROE(自己資本利益率)やROA(純資産利益率)に代表される財務指標に基づいて決まるという、従来型の資本の論理に縛られてしまい、上場をしたがゆえに当初の理念を逸脱してしまう残念な企業の例は、枚挙にいとまがない。

資金の出し手である投資家サイドでも、ここ数年で社会の持続可能性を意識したESG(環境・社会・ガバナンス)投資が急速に浸透し、ただ高いリターンさえ上げればよい、株主が無条件に偉いといった単純な見方は、もはや社会に受け入れられなくなっている。

こうした動きをさらに一歩推し進め、投資家が積極的に社会的企業に投資を行う、あるいは自らの判断で能動的に社会的事業に資金を投入して後押しするようになれば、収益至上主義だったこれまでの株式市場は大きく変容する可能性がある。

ライフイズテックが「ソーシャルIPO」を通じて世の中に問い掛けようとしているのは、こうした収益性と社会性の双方をベースに企業価値が決まる新しい世界観である。そこでは、経済的価値だけが判断基準であった株式市場の中に社会的価値という新しい尺度が組み込まれることで、これまでとは全く異なった資本の論理が駆動し始める。「ソーシャルIPO」が実現して新しいIPOのモデルケースになれば、それまで資本市場から距離を置いていた社会企業家たちにとっても、新しい資金調達の道を開く大きなブレークスルーとなるのである。

文=堀内 勉

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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