資本市場に「社会性」を持ち込む 「ソーシャルIPO」が目指す世界

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Forbes JAPAN 8月号(6月25日発売)に掲載の「日本のインパクト・アントプレナー35」。そのアドバイザリーボードとして名を連ねた多摩大学社会的投資研究所教授・副所長の堀内勉に、「ソーシャルIPO」が目指す世界について寄稿してもらった。


一般的にファイナンスと言えば、「コーポレートファイナンス」を意味する。短く言えば、営利法人である株式会社の企業価値を最大化するためのファイナンス手法である。

これに対して、いま、「ソーシャルファイナンス」という、対象を株式会社に限らず、より幅広くNPO法人や学校法人などの非営利法人も含め、事業の社会性に注目したファイナンスのあり方が注目されている。

私が教授・副所長を務める多摩大学社会的投資研究所は、具体的な社会的事業の支援を通じて、国内のソーシャルファイナンス、その中でも特に、収益性(経済的価値)と社会性(社会的価値)を同時に追求する新たな投資手法である「社会的投資」の普及を目指す専門研究機関である。

そこで第一号の支援案件として手掛けているのが、ライフイズテックによる「ソーシャルIPO(社会的新規上場)」の共同研究プロジェクトである。同社は、「中学生・ 高校生の一人ひとりの可能性を最大限に伸ばす」というミッションを掲げた、中高生向けのIT・プログラミング教育に特化したエドテックスタートアップで、「ソーシャルIPO」というのは同社の水野雄介CEOによる造語である。

これまでの3回の増資では、投資契約書の中に「中高生を対象とした教育以外の事業の長期的な成長と発展に協力する」と明記して投資家の理解を得てきた。同様に、これから予定している株式公開後においても、市場の論理に絡みとられてこうした株主との間の相互理解が見失われ、自らが掲げた経営理念から逸脱してしまうミッションドリフトを起こすことがないよう、新たな仕組みを構築しようというのが「ソーシャルIPO」の考え方である。

現在、その実現に向けて、種類株の上場、環境や社会に配慮した企業であることを示す第三者認証の取得や定款へのミッションの明記、上場後の社会的インパクト評価基準の策定、その計測におけるシステムとの連動などについて、両者共同で研究・開発を進めている。

特に重要なのが、「株主が納得できる形で社会的インパクトを計測・開示すること」である。これまでサービスを受講した4万人の中高生の一部を対象に調査を実施して、進路の変更、アプリのリリース、起業など、受講生の人生と彼らが社会に与えた影響を調べることで、独自の指標化を進めている。
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文=堀内 勉

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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