「継承か革新か」 正義を前に揺れた女性ジャーナリストの矜持

(左から)スティーブン・スピルバーグ監督、メリル・ストリープ、トム・ハンクス


「ペンタゴン・ペーパーズ」の掲載を巡り、社とキャサリンをあくまで守りたいフリッツら役員、顧問弁護士と、「報道の自由」を主張するベンが激しく対立する中で、キャサリンは苦しむ。

ワシントン・ポストはホワイトハウスのお膝元であり、キャサリンの一族は歴代の大統領との親交があり、渦中の人であるマクナマラ長官は彼女の長年の友人なのだ。

ここでフリッツの助言に従うことは、父や夫が成してきたことの継承を意味する。それは古いが安全な世界だ。ベンの主張への同意は、危険を顧みず自らの姿勢を示すこと。失敗すれば「これだから女は」という目で古参達から見られるだろう。「保身か正義か」の裏には「継承か革新か」という、彼女にとって重い選択があったのだ。

決断をしたキャサリンが、早口で何度も繰返す「Let’s go!」の勢いと熱には、内に秘めたジャーナリストとしての強い矜持が宿っている。

映画連載「シネマの女は最後に微笑む」
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文=大野 左紀子

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