退職の時期が寿命を決める? 米国の「都市伝説」の真偽

(Hero Images/by Getty Images)

インターネット上では最近また、定年退職するのは早い方が長生きできるという情報が出回っている。

フォーブスにも今年7月、昔からある都市伝説を紹介した記事が掲載された。ボーイングとロッキード・マーティンを65歳で定年退職した人はその後、平均で1年6カ月後に死亡しているが、50代半ばで早期退職した場合は80代前半~半ばで亡くなる人が多いというのだ。

この調査結果を引用している記事は、他にもある。だが、両社の「元従業員」を対象に行ったとされるこの調査の結果は、本当に正しいのだろうか?

筆者は1981~2002年、ロッキード・マーティンの企業年金制度の管理に関わるアクチュアリー(保険数理士)のチームの一員だった。私たちは数年ごとに、制度加入者に関するデータを厳密に調査。退職者の死亡時の年齢も確認していた。

そのため私は、65歳まで働いた従業員が退職後に平均わずか18カ月で亡くなっているという結果を支持する証拠が全くないことを知っている。また、こうした過去の経験から、ボーイングの退職者についても同じことが言えるのではないかと考えている。

都市伝説や民間伝承について実際に調査した結果を紹介するサイト、「Snopes.com」には、私の考えを裏付ける次のような記載があった。

「ボーイングのアクチュアリー・チームの責任者だったジュリー・カーティスによると、少なくとも20年前から出回っている調査結果を示すグラフには実際のところ、根拠がない。…全く真実ではないにもかかわらず、都市伝説になっている」

スタンフォード大学長寿研究センターで私の同僚だったドーン・カー(現在はフロリダ州立大学准教授であり、同大学のペッパー加齢公共政策研究所の講師でもある)によれば、退職時の年齢にかかわらず、退職が死亡の原因要素になるという結果を支持する確かな証拠はない。

「何歳まで生きるかは一般的に、その人の全般的な健康状態、社会経済的地位、教育を含む数多くの要因によって決まる」という。

カーが発表した論文によれば、労働に従事する期間が長くなることと、健康維持と長寿には相関関係がある。また、私自身の研究でも、高齢の労働者は働いていない同年齢の退職者よりも、長生きであるとの結果を得ている。
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編集=木内涼子

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