こうした意識の高まりに応えるかのような新しい動きも出てきた。例えば、米国でインパクト投資領域を開拓してきたマッカーサー財団、ロックフェラー財団、オミディヤー・ネットワークの3者は19年3月に「Catalytic Capital Consortium」と呼ばれるイニシアティブを立ち上げた。Catalytic Capitalは、長期志向で柔軟、市場レベルのリスク・リターンを求めないタイプの資金が、メインストリーム化するインパクト投資を補完する重要な資本だと主張している。マッカーサー財団のジュリア・スタッチ会長はインパクト投資の市場拡大に伴って市場レベルのリターンを生む投資にばかり注目が集まり、より深刻な社会課題解決に挑むソーシャルビジネスが置き去りにされていることに警鐘を鳴らしている。 「Place-Based Investing」も従来型の金融を補完する動きとして注目される動きだ。より地域レベルでのインパクトに着目し、その地域にコミットした金融機関、財団、個人などからの資本を動員しようという試みで各国で少しずつ研究が進んでいる。
こういった新たな動きは、インパクト投資の市場拡大、メインストリーム化を歓迎しつつ、既存の金融の枠組みに基づいた投資では手当てできない社会課題への対処に対する多様なレスポンスだと言える。
日本でもESG投資や国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の盛り上がりを背景に従来型の投資家の参入は続くだろう。グローバルな金融市場を舞台にした「大きなお金の流れ」がより社会・環境課題への解決に流れることは必要で、今後の充実が望まれる。他方、先進国における社会・環境課題は多様化・個別化しており、ビジネスの一定規模への拡大と成長スピードが求められる従来の金融の常識では対処できない企業があることも確かだ。特に、地方創生の文脈で社会的志向性の高い企業や新たなローカルベンチャーは東京を中心としたグローバル金融の世界で戦うことを前提としていない。より地域の関係資本に根差したビジネスの持続性のあり方を模索している。
こうした企業のニーズに、インパクト投資はどのように応えられるか─。地域や特定の価値観に基づく共感型の資金を集める投資型クラウドファンディングの取り組み、既存の貨幣経済では交換できない価値を流通させようという代替通貨の導入、といった新しいお金の流れの実験が各地で進んでいる。多様化するこうした新たな取り組みを見るにつれ、今後求められるのは従来の金融の「インパクト化」だけではなく、これまでの「インパクト投資」という分野ではくくれないような多様なお金の流れの創出だと感じている。これから10年、日本でもインパクト投資がお金の流れの爆発的な多様化を誘発するのではないかと期待している。