「社会的であれ」NYのメディア理論家が今、世界に訴えたいこと(後編)

2019年5月、ニューヨークで開かれたカンファレンス「Techonomy」で基調講演をするダグラス・ラシュコフ。


社会性を保つ方法は簡単だ。週に10分でもいい。デバイスなしに人とひざを交えて話すことだ。ユダヤ教の安息日のように、週に1日、デバイスに触れない日をつくる。そうすれば、人とのつながりを再発見でき、自分をリセットできる。

進化とは乏しい資源を奪い合う個人間の生存競争であり、最も高い樹木が日光を浴び、小さな木は枯れて滅びると考えがちだが、ダーウィンの教えは違う。大木は小さな木と栄養分を分け合い、今度は大木が枯れると、小さな常緑樹が栄養分を回す。人間が最も進化した種であるならば、最も複雑なやり方で、チームとして協働し合えるはずだ。

──日本の読者にアドバイスを。

シリコンバレーのまねをしてはいけない。外国で「第2のシリコンバレーになりたい」という声をよく耳にするが、わが国を見よ。ドナルド・トランプの目を見据え、自分自身に問いかけてほしい。日本が望む未来はこれなのか、と。日本には文明がある。シリコンバレーの価値観に屈しないでもらいたい」


COLUMN テレビは壁を壊し、インターネットは壁をつくる

ダグラス・ラシュコフは1994年のデビュー作『サイベリア──デジタル・アンダーグラウンドの現在形』(アスキー刊)で、当時普及し始めたネット文化をサブカル的な視点で書いて以来、デジタルエコノミーとそれが世界にもたらすものについて深く考察を進めてきたパイオニアである。米国各地のテックカンファレンスを回り、リベラルな視点で現状に警鐘を鳴らす著名な講演者だ。アメリカの公共放送PBSのデジタルエコノミーに関するドキュメンタリー番組もいくつかプロデュースしている。

2016年の『Throwing Rocks at the Google Bus(グーグル・バスに石を投げる──未邦訳)』では企業の成長と人間の繁栄が一致しない状態を「成長の罠」と呼び、独占型のデジタル産業主義を批判した。

最新作の『Team Human』では、文字や印刷の発明など、その起源からメディアの役割を洞察し、20世紀のテレビ時代はベトナム戦争、ベルリンの壁崩壊、各地の災害などが生中継され、世界中の人々のメディアを通した共通体験によりグローバリズム、国際協調、開かれた社会が促進されたのに対し、デジタルメディアは衝動的な感情の刺激が偏向の原因となり、政治家はポピュリズムに走り、貿易障壁をつくり、国と国の間に物質的な壁をつくろうとしている。ひとり一人が「Being Social(社会的であれ)」ことがその打開策であり、それはインターネット登場以前を知る世代が進んで警鐘を鳴らしていかなければならない、とする主張が興味深い。


ダグラス・ラシュコフ◎作家、メディア理論家、クイーンズカレッジ(CUNY)教授。ニューヨーク在住。著作に『サイベリア──デジタル・アンダーグラウンドの現在形』(アスキー刊)、『Team Human(チーム・ヒューマン──未邦訳)』など多数。

インタビュー=肥田美佐子 写真=OGATA

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