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2019.08.07

「ESG投資」は名ばかりか その問題点を考える

「ESG投資」に関心を持つ企業経営、資産運用、年金基金が多くなってきた。ESGとは、Environment、Social and Governanceの頭文字をとったもので、「環境、社会、企業統治」と訳される。ESGというだけでは企業経営をどう変えたらよいのかわからないという経営者、資産運用先の選定をどのように変えたほうがよいのかわからないというストラテジストも多い。さらに年金基金のポートフォリオ選択においてESG投資が、受託者義務(Fiduciary duty)に反しないのか、悩む年金基金幹部も多いかもしれない。理論的にも、実践的にも、ESG投資には、いくつかの疑問がある。

「ESG投資とは何か」と問われて、すぐに思いつくのは、例えば、環境に悪い(=地球温暖化ガスを排出する産業)会社への投資を止める、環境によい(=地球温暖化ガスを排出せずに発電をする)会社への投資を増やすという投資手法であろう。前者をブラックリスト化とか、ネガティブ・スクリーニングと呼ぶことが多い。後者は、ポジティブ・スクリーニングと言うことが多い。

では、このように、投資対象を限定すると、ファイナンス理論(のかなり基本的な原理)によれば、必然的に、リターンは(ESGを考慮しない投資戦略に比べて)低くなる。ESGを考慮せずに(リスクを一定として)リターンを最大化している投資戦略では、すべての企業の株のリスク・リターンを考慮したうえでポートフォリオを組んで、同じリスクで最も高いリターンが期待できる効率的フロンティアを計算している。投資家は自身のリスク回避度を考慮して、効率的フロンティアから一点を選ぶことになる。

ところが、ESGを考慮していくつかの企業を投資対象から除外(ゼロ・ウェイト)する、いくつかの企業をオーバー・ウェイトすることをあらかじめ決めると、効率的フロンティアの達成は困難になる。より正確に言うと、ネガティブ・スクリーニングやポジティブ・スクリーニングでは、投資の効率的フロンティアを上回ることはできない。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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