ファーストリテイリングの購買アシスタントサービス「UNIQLO IQ」やトヨタ自動車のオープンイノベーション「TOYOTA NEXT」など、日本企業のクリエイティブも手がけるイナモト氏だが、2016年春のI&CO創業当初、特に日本企業へフォーカスする予定はなかったという。
「僕も日本人ではありますが、高校からスイスへ留学しましたし、十数年アメリカでデザイナーとして活動してきましたから、特に強く意識はしていませんでした。けれども、1980年代におけるトヨタやソニーといった企業以降、なかなかグローバルにインパクトをもたらすような日本企業が現れない中、2020年以降の国内市場縮小を見据えたご相談が少しずつ増えてきたのは確かです」(イナモト)
ニューヨークで直面した「クリエイティブエージェンシー」の限界
そもそも、前職のAKQA worldwideではAudi、Nike、Xboxなどを担当し、CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるなどめざましく活躍していたイナモト氏が、共同創立者のレム・レイノルズ氏とともに自らの会社を立ち上げた背景には、ある課題感があった。
「スマートデバイスやSNSの普及によって、広告・マーケティング業界は大きく変わりました。デジタルが世の中に影響を与えることで、企業やブランドにおける顧客との接点や関係構築も大きく変わってきたわけです。
一方、企業は新たな事業を創出しようと、コンサル会社に高いフィーを払い、膨大な分析データと100通りの提案をもらい、どれを実行するか決めきれないまま、今度はデザインファームにオファーして『〇〇の未来はどうあるべきか?』といった問いに対する答えとカッコいいスライドをもらっているあいだに3、4年経ち、いよいよ時間もお金もなくなってきたタイミングで、クリエイティブエージェンシーに話が来る。『クリスマスに向けたキャンペーンだから、この予算でなんとかしてほしい』みたいな。
ちょっと極端な例かもしれないけど、実際、それに近いようなことを前職時代、現実として見てきたんです。けれどもそれは、あまりにクライアントにとって不合理だな、と思って。そこをかいつまんで、一気通貫でやれるようなスタジオになれないかと考えて、立ち上げたのがI&COでした」(イナモト)