ビジネス

2019.08.07 08:00

レイ・イナモトが語った「デザイン・シンキングの限界」の真意、21世紀の日本のチャンス


日本のクリエイターはもっと「世界」を意識すべき

もはや「広告」一つで爆発的な支持を得られるような、顧客とプロダクト・サービスとの「幸福な出会い」は起こりにくい。その手詰まり感が日本の広告・マーケティング業界を覆っているように見えるが、イナモト氏はむしろ「日本の広告会社」にこそチャンスはあるはず、と指摘する。

「アメリカでは明確に分業化が進み、クリエイティブ・エージェンシーとメディア・エージェンシーはそれぞれ異なる領域を管轄している。日本の広告会社のように、戦略もクリエイティブもメディアもすべて一つの会社の中で対応できるのは、アメリカでは考えられません。ただ、全体を見通せる仕組みはあるのに、結局アウトプットが広告のみに収まってしまっているのは、もったいないですよね」(イナモト)

だからこそ、日本のクリエイターはもっと「世界」を意識すべきだとイナモト氏は語る。

「カンヌライオンズでも、日本から来た皆さんはとても熱心に勉強していて、それはそれで感心するけど、その期間が終われば日本向けにローカライズする、みたいな印象を受ける。けれども、本当に面白いことはどんどんユニバーサルになっていくと思うんです。日本国内のプロジェクトであっても、つねに『これは世界一になれるのか』『世界で通用するのか』といった判断基準は持っておいたほうがいい。

そもそも、日本には既に充分、世界と対峙できる力を持っている。こうして日本へ帰ってくるたび、さまざまなサービスに接していると、時間通りに到着する電車、清潔感のある街並み、治安、食事……これほど高い水準の国は世界になかなかありません」(イナモト)



細部を磨き、高品質なものを生み出す力は確かにまだ日本は優れているのかもしれない。ただ、0→1を発想する想像力や、それまでの固定観念を覆し、新たなものを生み出す飛躍力には、課題があると言わざるを得ない。イナモトはこう警鐘を鳴らす。

「ここ数年、『デザイン・シンキング』が半ばバズワードのようになっているけど、果たしてそれがきちんと定義されているのか、疑問を覚えます。本来、『デザイン』のプロセスに『思考』が含まれているはずなのに、あえて『シンキング』と付け加えなければならないところに、デザインを装飾的に捉えている矛盾を感じてしまう。フレームワークとして機能させるばかりで、結果的に何もデザインしていない。それってもはや『デザイン』ではないのではないか、と思うんです。

「我々は人として、ワクワクするようなことを見出していったほうが、もっと楽しいはず。僕らが“Business Invention”という言葉を使ったのはそういう意図で、結局、アートも音楽もカルチャーも『ビジネス』ですよね。そういったものも含めて、新しいものを発見して、新しいことを開発していく。その0→1を僕らが手助けしていけたらと考えています」(イナモト)

文=大矢幸世、写真=小田駿一

ForbesBrandVoice

人気記事