100周年を迎えた「初恋の味」とうま味の話

Terence Toh Chin Eng / Shutterstock.com

今から100年前、1919年の七夕の日、日本で初となる乳酸菌飲料が誕生しました。あの国民的飲料、カルピスです。

おそらく、日本人のほとんどの人が飲んだことがあるのではないでしょうか。特に夏の暑い日、氷を入れたグラスで。僕は日仏の融合ということで、南仏の炭酸水「ペリエ」で割って楽しんでいます。

そんなカルピスの生みの親は、三島海雲さん。仕事でモンゴルを訪れた際に、「乳酸」を日頃から摂取しているモンゴル民族のたくましさに驚き、「今までにない健康で体に良いものを多くの人に」との思いからカルピスを開発。発売から数年後、1922年に「初恋(初戀)の味」のキャッチコピーで打ち出されると、またたくまに日本中に広がっていきました。

なぜ「初恋の味」だったのか。カルピス社によると、三島さんの後輩である驪城(こまき)卓爾さんが、「甘くて酸っぱいカルピスは「初恋の味」だ。これで売り出しなさい」と提案したことがきっかけだといいます。

昨年のカルピスの誕生日(7月7日)を前に、三島さんの記事を読む機会がありました。三島さんはその生涯にわたり、国家の利益となり、人々の幸福につながる事業を成すという「国利民福」の精神を貫かれましたが、僕が特に素晴らしいと思ったのは、「人とのつながり」という財産を活かしながら、その精神を広めていったということです。

それはまるで乳酸菌が腸内環境を整え、健康になった人々がそのコミュニティ(町内会=腸内会)を整えているようなイメージで、カルピスが腸内会の回覧板のように回りながら、国民の健康を育んでくれているように思いました。



さて、初恋の味はカルピスで間違いないとして、「初愛の味」となるとどうでしょうか? 僕は、それは母乳であり、うま味であると考えています。

取材やセミナーでうま味の話をするとき、僕はよく「人間はうま味に服従しています」という表現をします。やや過激に聞こえるかもしれませんが、なぜなら、母乳の中にうま味成分が含まれているから。

お母さんが赤ちゃんに飲ませる母乳の中には、うま味成分であるアミノ酸であるグルタミン酸が非常に多く含まれていて、それが私たち人間にとってのうま味との出会いであり、大人になって、出汁の効いたお味噌汁を飲んでほっとするのにも通じる感覚にも繋がっていきます。手間暇かけて作られたおばあちゃんの郷土料理が恋しくなるのも同じ理由。うま味にはそれだけのパワーがあります。
次ページ > 味を感じるのは「味覚」だけじゃない

文=松嶋啓介

ForbesBrandVoice

人気記事