「AIナショナリズム」は人間のためにならない 米ジャーナリストに聞く

(Photo by Chesnot/Getty Images)

米中間の開発競争は、「AIナショナリズム」に走っている──。21世紀の課題を解決し、真の大変革を起こすために必要なものとは。


テック大手の独占など、シリコンバレーをめぐるニュースは尽きない。プラットフォーム企業に詳しく、『Raw Deal: How the “Uber Economy” and Runaway Capitalism are Screwing American Workers』(不利な取引──「ウーバー経済」と暴走資本主義が、いかに米労働者を締めつけているか(未邦訳)の著者でもあるジャーナリストのスティーブン・ヒルにデータ独占や規制問題、人工知能(AI)開発などについて話を聞いた。

──今年3月、米ライドシェア2番手のリフトが新規株式公開(IPO)を果たし、5月には同最大手ウーバー・テクノロジーズが後に続いたものの、IPO後、いずれも株価が下がりました。

今のところ一部投資家が買い支えているが、いずれ関心を失うのではないか。

ウーバーは毎年、巨額の損失を出しており、黒字化のビジネスモデルを見いだせていない。(タクシーなどの)競合相手を駆逐し、市場シェアを拡大すべく運賃を大幅に抑えているため、乗客が増えると、むしろ損失がかさむ。黒字化には値上げしかないが、顧客をキープできるかどうかは未知数だ。

わが社は多様な事業を手掛けているから投資すべきだ、というのがウーバーの主張だが、ライドシェア以外でも、大きな黒字化は見込めそうにない。

料理宅配サービス「ウーバーイーツ」は競合相手が多いうえに料金が安い。電動アシスト自転車や電動キックスケーターのシェアサービスも、使用料が少額だ。トラック運転手と運送業者をアプリでつなぐ「ウーバー・フレイト」は、ある程度儲けになるかもしれないが、全米のトラック運転手350万人のうち、利用者は約3万人だけだ。

──フェイスブックやアマゾン・ドット・コムなど、テック大手の独占や解体論が議論を呼んでいます。引き金はフェイスブックの不祥事ですか。

そうだ。2016年大統領選に絡み、英政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックのユーザーデータを不正入手したとされることやフェイクニュースなど、フェイスブックには複数の問題が浮上した。10代のユーザーの投稿から(不安感など)彼らの気分を分析し、「感情的にもろい若者へのターゲット広告が可能だ」と企業に伝えていたともいわれる。

フェイスブックは高校の同級生とつながるための「クールな」ツールだと思われていたが、大統領選や人々の心的健康を脅かすものであることがわかった。アマゾンも、ひいきの企業の商品を優先させたり、豊富なデータを基に売れ筋商品を分析し、同種の製品を(自社で)作って顧客を誘導したりする点などが指摘されている。このようなマーケティング操作は前代未聞だ。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ティム・ボエラース

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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