「AIナショナリズム」は人間のためにならない 米ジャーナリストに聞く

(Photo by Chesnot/Getty Images)


──テック大手のデータ独占に対し、政府はどこまで関与すべきでしょう?

AIを活用する企業が増えるにつれ、その基になるデータを誰が保有・管理するかという問題が極めて重要になっている。グーグルやフェイスブックは、無料サービスと引き換えに収集データを収益化しているが、データをどう使っているのかは闇の中だ。その結果、無料サービスには大きなツケが伴うことが明らかになった。データを「未来の石油」や「新通貨」になぞらえ、デジタル時代の最も主要な製品だと指摘する声もある。

フェイスブックのザッカーバーグCEOは適切な規制には同意しているが、米連邦政府は手をこまねいている。だが、(相次ぐ不祥事を見ても)フェイスブック自身もアルゴリズムの潜在性をどこまで認識しているのか定かではない。だから、政府の介入が必要だ。

フランケンシュタイン博士が生み出した人造人間が怪物化したように、アルゴリズムの複雑化に伴い、その監督・制御が難しくなっている。いわゆるアルゴリズムのブラックボックス化だ。

欧州連合(EU)では昨春、「一般データ保護規則(GDPR)」が誕生。個人情報収集で企業がユーザーから許可を取る必要性など、多くの規則が課された。だが、そもそも企業に個人情報の所有権はなく、データは個人のものだという、より厳しい意見も出ている。

──民間企業や学術界でのAI研究開発について、また、米中AI開発競争の問題点について教えてください。

現在、米国のAI開発は、主に企業と大学の研究所で進められている。大学は資金が不十分で、政府の助成金やテック大手からの援助に頼ることが多く、気候変動問題などで大変革を起こすようなAI開発を実現できない。

一方、フェイスブックやグーグル、アマゾンは、開発資金・人材は豊富だが、主な研究目的はターゲット広告や検索エンジンの向上であり、人間に恩恵をもたらすAI開発ではない。米国では、AIの研究パラダイムが、AIの真の力を活用する方向に向いていないことに、多くの人が気づきつつある。

米中間の研究開発競争については、新兵器開発などの軍事目的をはじめ、両国が国益に基づき、「AIナショナリズム」に走っている点が問題だ。中国は、個人データで国民の格付けを行うシステムを開発中だという。信用度が低いと社会の恩恵を受けられなくなるそうだが、そうした市民の監視・管理手段としてのAI活用も実に気がかりだ。

軍事目的にせよ監視手段にせよ、広告の最大化・検索結果の操作にせよ、人間のためのAI開発とは言えない。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ティム・ボエラース

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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