「修羅の時代」20代が陥りやすいリスクとは|池上高志 #30UNDER30

複雑系研究者 池上高志


20代になってもそれは変わらず、東大に入って研究を続けました。そのまま大学院に進み、卒業後は京都の基礎物理学研究所や、神戸大学で研究をしていました。その間にも、アメリカのロスアラモスで研究をしたり、オランダのユトレヒトに行ったり。その時々で「面白そう」と思った場所には行くようにしていましたね。

ロスアラモスにいた1989年、中国で天安門事件が起きて、デモ隊の副リーダーがロスアラモスに来ていたんですよ。このあと中国や世界はどうなるんだって話でもちきりで。89年は東欧革命の年で、世界が大きく変わった時代でした。当時は28歳だったかな。

いま同じ東大で教授をしている物理学者の金子邦彦さんや、いまハーバードで教授をやっているウォルター・フォンタナ、他にたくさんの才能豊かな研究者に出会い、彼らの考え方にとても刺激を受けていました。

でも、「この人みたいになりたい」と思ったことは全くないですね。時が経つにつれ、影響される人や付き合う人は変わっていきますし。でも科学者の多くがそうだと思いますよ。僕の場合は人生イコール研究だから、研究内容とパーソナリティが表裏一体なんです。歳を重ねて研究内容やレベル、生活環境が変われば思考も変わる。したがって影響を受ける人も変わるものですね。



自分の環境は自分で作る

私はもう長いこと大学教授をやっていますが、教授といえどもやはり大学からお金を頂いているので、言ってみればサラリーマンと同じ。基本的に教授はみなさん研究者だから、三度の飯より研究に没頭したい人たちばかり。でも、時には仕事としてあまり気が進まないこともやらなきゃいけないし、いまは大学全体的に研究以外の仕事も増えているでしょう。正直「やりたくないな」と思う仕事が多いけれど、それでも学生との議論はすごく大事で、それが一番かと思います。

どうすれば自分のやりたいことができる領域を確保できるか。やりたいことの自由度をあげていけるか。そう考えて、2年前にオルタナティヴ・マシンっていう会社を立ち上げたんです。ALIFE人工生命の考えをもとにして、企業のコンサルティングや企業と共同研究をする会社を、ヴォロシティ社の青木竜太さんや筑波大の岡瑞起さんと作りました。

やっぱり自分の好きなことをする環境は、自分で作らなきゃだめですね。他人に任せちゃだめ。自分でやるしか無いんです。僕は15年から渋谷(慶一郎)さんとアートの活動をやっていますけど、その経験は研究活動にもすごく生きています。違う畑で挑戦してみる経験をしないと考えられないこともあると思うんですよね。年齢とか立場とか色々な事情がどんどん増えていくでしょうが、自分で人生を狭く捉えるのはもったいないですよ。
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文=石原龍太郎 写真=小田駿一

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