「修羅の時代」20代が陥りやすいリスクとは|池上高志 #30UNDER30

複雑系研究者 池上高志


20代は「生き急ぎのリスク」がある

とはいえ人生のステージに応じてやれること、やれないことはどうしても出てきます。40代、50代になると体力も落ちるし、病気のリスクも高まる。これは生物である以上どうしようもないことです。僕はいま会社をつくりましたが、30代のときに会社をつくるなんて絶対に無理でした。ALIFEのコンセプトも深まってなかったし、なにより実力不足だった。しかし、3年前に父が他界してしまったのを機に人生の考え方も大きく変わりました。「若いときは何でもできる」とよく言うけれど、僕の場合は「歳を重ねた今だからできた」ことなんです。

しかし、僕は実力不足だったけど、実際には30代は一番めちゃくちゃに挑戦できるタイミングだと思います。身体的にまだ健康だから病気のリスクも低いし、ある程度基礎的なことも学んだあとだし。30代で暴れるためには、20代で積んだ成功体験の数が大切なんじゃないかな。目に見える大きな成果でなくとも、自分で納得できる小さな成功体験を積んでいるか否か。常に自信を持てるなら、別に、必ず成功体験が必要なわけではありません。でも多くの人にとって、過去に成功した経験が無いと、新たな一歩を踏み出すときにやっぱり心細いんじゃないかな。

よく「年齢が上がると挑戦ができなくなる、若いときこそ挑戦すべき」っていわれるけど、僕は、30代はノーリスク、逆に20代は「生き急ぎのリスク」があると思います。いまはSNSでキラキラした日常や自慢話で容易に人の注目を集めることができる時代ですけど、他者からの「いいね=表層的な評価」とかは本当にくだらないと思う。

そんなことよりも、20代のときはやっぱり修行僧的に頑張る時期だと思う。アンダー30って修羅の時代ですよ。頑張って頑張って、目立たないし認められないけども、耐えて踏ん張る。淡々とやるべきことをやってさえいれば、外からの評価や面白い仕事、活躍の場は自然と与えられていき、そこにフィードバックが集まり、さらに面白いことをする未来が待っている。僕自身もそうでしたから。




いけがみ・たかし◎1984年 東京大学理学部物理学科、89年東京大学大学院理学系研究科物理学修了。複雑系研究者。理学博士。「コンピュータシミュレーションをもとにした生命システムの理解」=「複雑系」を研究テーマとし,ダイナミクスからみた生命理論の構築を目指す。複雑系と人工生命を研究テーマとし、ダイナミクスからみた生命理論の構築を目指している。国際ジャーナル「BioSystems」「ArtificialLife」「Adaptive Behavior」などの編集を行う。また、複雑系・人工生命の研究のかたわら、渋谷慶一郎、evala、新津保健秀らとのアート活動も行っている。

池上が「サイエンス部門」のアドバイザリーボードとして参加した「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者は、8月23日に特設サイト上で発表。世界を変える30歳未満30人の日本人のインタビューを随時公開する。

昨年受賞者、「スーパーオーガニズム」でボーカルをつとめる野口オロノや、昨年7月にヤフーへの連結子会社化を発表した、レシビ動画「クラシル」を運営するdelyの代表取締役・堀江裕介に続くのは誰だ──。

文=石原龍太郎 写真=小田駿一

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