これは、世界の人工生命研究者が集うALIFE(人工生命国際学会)2018のプレ・プログラムとして行われた「Scary Beauty」というアンドロイド・オペラ。音楽の強弱やテンポはAIを搭載したアンドロイド「オルタ2(Alter2)」が自動的に判断し、人間はオルタ2の指揮に従って演奏をする。まるで映画「アイロボット」のような、人間がロボットに従属した世界観を示唆しているように感じ、衝撃と恐怖心を抱いた。
このプロジェクトを中心となって牽引したのは、ロボット工学者の石黒浩、音楽家の渋谷慶一郎、そして今回話を聞いた、複雑系研究者であり人工生命の世界的な研究者として知られる池上高志だ。
30歳未満の次世代を担うイノベーターを選出する企画「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2019」のサイエンス部門アドバイザーである池上は、なぜ研究者の道を志したのか。また、研究者の立場からアンダー30へ向けたメッセージとは。
世の中の現象に興味があった
人工生命や物理に興味を持ったきっかけですか…… 全然覚えていませんね。父が物理学者で小さい頃から数学や物理の話ばかりしていたので、物心ついたときから理科は好きでした。
小学生の頃は宇宙船とか、スコットランドの物理学者、チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソンが作った「クラウド・チェンバー」とかが好きだった。物理学者のジョージ・ガモフが書いた「不思議の国のトムキンス」って本を小学5年生くらいのときに読んで、そこから相対性理論にも興味をもつようになりました。いま世界40〜50カ国くらいで翻訳されていますけど、この本に導かれた研究者は多いんじゃないかな。高校時代は、半分冗談ですけど「相対性理論クラブ」を友達と2人で作って、教科書に書かれていないことを自分たちで勉強したりしていましたね。
理論に関する本を色々読んでいると、学校で習ったことがないことがたくさん出てくるじゃないですか。世の中の99.9%は学校の勉強だけでは接触できないものでしょう。僕は幸運にして父が物理学者だったから、無意識のうちに「わからないこと」を探求することが身に染み込んでいた。教科書には載っていないような世の中の現象を調べることが好きだったんです。当時も今も、面白いものは「わからないこと」。それ以外にないですね。