──2017年、麻子さんは「ねぶた大賞」を受賞しています。お父様から何か声を掛けられたんでしょうか?
ねぶた大賞をとったときは、父からはなにも言われなかったです。やっぱり師匠ではあるけれど、うちの父もねぶた師なんです。極端にいうと、私が大賞を獲ったということは父が負けたということ。それから父はすごく変わって、私のことすごくライバル視するようになりました。でも、勝負の世界ですからね。
2017年、ねぶた大賞を受賞した「紅葉狩」。北村らしい色合いが、ライトが点くと一層映える(写真提供:北村麻子)
浮世絵師・葛飾北斎と重なった父
──2018年のねぶたのテーマは、そのお父様が関係しているようですね。
2018年、ねぶたの下絵を描く頃に、父が腰の手術を受けて体調が良くなかったんです。それを見て「もうこれは、ねぶた作れないんのではないか」と思っていました。
その時に丁度テレビ番組で、葛飾北斎と娘・応為(おうい)が取り上げられていました。応為が弟子入りした時、浮世絵の世界に女性の絵師がいなかったようで、彼女は男性の中で生きていたんです。
北斎も体調を悪くして、絵を描くのが難しくなるんですが、他のライバルに負けたくない一心で、なんとかまた絵を書き始めるんです。それを見たときに自分と父が重なって見えましたね。私は父になんとか元気出してもらって、もう一度ねぶたを作ってほしい気持ちがあったので、2018年のねぶた「入雲龍 公孫勝」は、葛飾北斎と応為をモチーフに制作しました。
応為を知るきっかけも、「こういう人いるんだぞ」とデビューする頃に父から教わったので、父の中でもどこか重なっている部分があると思います。
父でもあり、師匠でもある北村隆と(写真提供:北村麻子)
伝統を守りながら、新しいことに挑戦する
──美しさや迫力以外のねぶたの魅力はなんでしょう。
ねぶたを見て、怒ったり悲しい顔をする人は誰もいないと思うんです。小さい頃に親に手を引かれて、肩車をしてもらったあの時にみんな戻れるのが魅力です。
祭りが終わると、次の日の朝5時からショベルカーで解体作業が始まります。デビューの年は泣いてしまうほど悲しくて、解体中見ていられなかったですが、制作者として最後まで見届けるのも仕事ですし、それを行うことによって次の年に気持ちを切り替えられる部分もあります。ねぶたはその儚いところも魅力の一つかもしれません。
──最後に、これからねぶた師として目指すものを教えてください。
やっぱり長く人を引きつける作品を作り続けたいですね。ねぶたの姿は徐々に変化していて、電飾がLEDに変わったり、色鮮やかで派手に、作りも繊細になっています。ねぶた師はいつの時代でもねぶた師同士でも競い合い、切磋琢磨することでより良いものへ発展させていると思います。
私たち若手のねぶた師がこれからやっていかなければいけないことは、伝統を守ることもそうですが、どんどん新しいことに挑戦して、良いものを次の世代に繋げることが大事だと思います。
2019年制作「神武東征(じんむとうせい)」