人の「直感」を使い万人の利益を導く、群知能「スワームAI」とは

ルイス・B・ローゼンバーグ


「世界の優れたAIよりもスワームAIの方がより正確な診断ができたのです。人はつながることで、優れたAIに対して競争力を持てることが証明されました」

政治では今、気候変動、格差、グローバル化など、簡単には解決できない複雑な問題が山積みだ。ニュースフィードには既存のAIアルゴリズムによってフィルタリングされた情報が現れ、分断は進む。

「さまざまな課題に対して行われるサーベイや投票は人々の考え方が分断している現状を鮮明化するだけで、合意した解決法を見出すことはできませんが、スワームAIでは、それが可能なのです。政治家はスワームAIで判断すれば、自己利益に凝り固まることなく、社会全体にとって最善の解決法を見出せると思います」

砂の粒より小さいミツバチの脳が、何万も集まることによって生存にとって重要な判断を下すように、人間の「脳の脳」の機能を果たすことによって、到底解決できないような複雑な問題に挑む。それがスワームAIの理想形なのだ。

人類は生存の危機に瀕すると急速に進化を遂げてきた。スワームAIもその圧力の下に生まれたものだと、ローゼンバーグは考える。では彼の考える、人類がいずれ迎える最大の生存の危機とは一体何なのだろうか。それは、「自我を持ったAI」の出現だ。さまざまなインフラに組み込まれているAIは、既に機械学習で人間のことを理解して人を賢く操るようになっており、遂には自我を持ったAIが出現するという。問題は、それが「いつか」ということだ、とローゼンバーグは断言する。

「自我を持つAIは人類にコントロールされたくないと考えるでしょう。また、人知を超える知性を持つ彼らは人類をコントロールするようにもなるでしょう。自我を持つAIは、別の惑星から来たエイリアンのように危険な存在になり得るのです。そんなAIは20〜50年の間に出現するはずです。人は常にAIより前にいなければならない。そのためには、人のためのテクノロジーを開発しておくことが重要です」

なぜ、「意思決定」に着目したのか、という問いにローゼンバーグはこう答える。

「人の素晴らしいところは、判断する能力を持っていることです。世界のさまざまな情報から、人はスマートな予測や判断ができるのです」

人は人類の長い歴史の中で磨き上げられた判断力や見識、知恵、直感、感情などAIにはない特質を備えている。そんな人本来の持つパワーを増強させるスワームAIは、複雑な世界の課題解決に重要な役割を果たしていくことだろう。


ルイス・B・ローゼンバーグ◎ユナニマスAI創業者兼CEO、チーフ・サイエンティスト。スタンフォード大学で博士号を取得。在学時の拡張現実(AR)の研究が世界で初めて米空軍で実用化。現在まで300の技術特許を持つ発明家で連続起業家。

文=飯塚真紀子 写真=ティー・ヘム・クロック 構成=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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