開発から販売まで。ベンチャー企業としての強み
素材開発のベンチャー企業の強みとして、素材開発の現場から、お客様への販売まで、事業におけるすべてフェーズを一気通貫で把握できていることにあるという。この事業のスムーズさから生まれる「スピード感」こそが、ベンチャー企業が大手企業に勝てる要素であるという。
大手の素材メーカーの場合、経営陣はお客様のニーズを把握しているが現場で働いている人、特に研究開発チームはそのニーズを直接知る機会が少ない。
そのため、社内で設定された目標に向けた開発に陥りやすいそうだ。そうしたある種の「思考停止」の状態が大企業にはある。本来であれば、現場の研究開発スタッフが「世の中でなぜこの素材が必要とされているのか」を理解する必要があるのだと宇治原は指摘する。
「僕らは研究開発からお客様の要望まで、1つの脳の中に入っている。でも、大企業の場合は、経営と現場、そしてお客様が直接つながっていないから、ちぐはぐなことが起こってしまう。コストダウンの問題は特にそれが顕著だと思います。
(素材メーカーの)商売において最初からプライスダウンを考えるのは絶対ダメです。これまでにない、新しい価値を与える素材を努力して開発しても、価格を下げてしまったら自分の儲けを減らし、開発の努力が無駄になってしまいます。
日本人は値段を下げるのが大好きですけど、本当は開発で努力した分、高く売るべきです。他にはない素材を作ったわけですから、その分は値段を高くするのは、当たり前です」(宇治原)
世界の電子機器熱問題を解決する、AlNウィスカー
AlNウィスカー、そしてU-MAPが解決したい課題は世界規模で深刻化する「電子機器の冷却問題」だ。仮に電子機器の熱伝導率を現状の10倍まで高めることができれば、温度差が少しでも発生すれば熱は外へ自然と逃げていく。
つまり、サーバルームに設置されている空調の設定温度が高くても、サーバを冷やすのには十分な温度となり、結果、全世界の空調の電気代を節約できる可能性を秘めていると、宇治原は力説する。
全世界の電力代カットを期待できるAlNウィスカーはその希少性、技術開発の難易度から、高額な値段で販売されている。そのため、企業から値下げ交渉の要求は幾度となくあったそうだが、サンプル段階では値下げをしていない。
「結果的に、AlNウィスカーを値下げしないで販売してよかったと思っています。それは安く買ったものは雑に扱われますし、そしてAlNウィスカーのニーズを再確認できたからです。高い値段で売ると、それを買った企業にとっても命がけです。
企業の担当者は上司を必死に説得して買いにくるので、投資対効果を出すためにみんな自分たちの全力を尽くすようになります。だから、素材を雑に扱うことなんてしなくなります。
また、AlNウィスカーをこんな高価でも買ってくれる人がいることが分かったことで、やはりみんな熱効率の問題で困ってるという業界の課題感を実感することができました。
『安かったら買う』ではなく、喉から手が出るほど欲しいから高くてもお金を出します、そんな企業さんに買っていただきたいし、そのために私達も研究開発費にお金を使って、今後よりレベルの高い素材開発に移っていくことができます」(西谷)