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2019.08.05 18:00

名古屋の大学研究室から世界の「熱問題」を解決する。素材ベンチャー「U-MAP」


「発見することだけではなく、マテリアルプロセッシング、つまり材料の作り方を開発することのほうが重要です。窒化アルミニウムが高熱伝導のセラミックスであるということは知られていました。ただ、大量生産となると全く新しいプロセスの開発が必要でした」(宇治原)

樹脂にセラミックスを混ぜて熱伝導率を高める取り組みは従来からあったという。しかし、技術上最大の問題点は、熱を逃がすためには樹脂にセラミックスを8割も混ぜないといけないということだった。樹脂の特性は軽く加工しやすいということ。しかしセラミックスを多く混ぜることにより、重く加工しにくくなってしまう。

しかし、U-MAPが開発したAlNウィスカーは、ファイバー状であるため、放熱用の空間が形成されやすい。つまり、樹脂に対してセラミックスの混合率がを少なくても、目標である熱伝導率を達成できた。

「大学研究室からの起業」のロールモデルに

素材開発には製造環境の設備投資や研究開発費など大変な労力と費用がかかる。そのため、「起業」という選択には周りからの強い反対もあったそうだ。名古屋大学内で行われていたAlNウィスカーの研究開発から、いかにしてベンチャー企業としての創業にいたったのだろうか。宇治原氏はもともと起業には興味がなかったが、周りの人からの援助があったことから検討しはじめたという。

「U−MAPは前田さんと一緒に創業したのですが、実は別の会社の人でした。前田さんがいた会社は素材を作る装置の研究開発を手掛けており、そこの社長さんから起業を何度も勧められていました。最初は断っていたのですが、そのうち、『うちの会社の前田が協力する』と提案され、『そこまで言ってくれるなら、やろうか』と決断しました。名古屋大の研究室の1つだった僕らが、なぜ起業できたのか。それは僕らを助けてくれる人がいたからです」(宇治原)

AlNウィスカーを始め、画期的な素材や技術の宝庫である大学研究室。起業するか迷っている他の大学研究室に向けて、U-MAPは「大学研究室からの起業」のロールモデルにしていきたいと語る。

「僕らがもし成功したら、素材開発は大変だと起業に反対する人がいても、先行事例を示して反論することができます。僕らが成功することで、日本で大学研究室からの起業件数は間違いなく増えるはずです」(宇治原)


U-MAP CEOの西谷健治
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文=大木一真 写真=小田駿一

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