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日本のオープンイノベーション推進の道のりは、決して平坦なものではなかった。しかし、先駆者たちの尽力の甲斐もあって、次々と成果が実を結んでいる。

今、押し寄せているオープンイノベーションの波は5年後、10年後の日本社会にどのような影響を及ぼすのだろうか。「地方」と「グローバル」の視点を踏まえ、オープンイノベーションが我が国の未来にもたらす可能性について、Forbes JAPAN編集長代理の藤吉雅春による司会で、内閣府イノベーション創出環境担当企画官の石井芳明氏、JR東日本スタートアップ代表取締役の柴田裕氏、オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」共同創設者の中村亜由子氏の間で議論がなされた。


(左より)柴田裕氏、石井芳明氏、中村亜由子氏、藤吉雅春


オープンイノベーションが加速度的に広がる

解決すべき課題は存在するものの、オープンイノベーションの概念自体は確実に世の中に浸透しつつある。この点について内閣府の石井氏は、日本のオープンイノベーションの現状を、スタートアップ投資の観点から次のように述べた。

「オープンイノベーションに対する機運は高まっています。スタートアップに対する投資額に注目してみると、リーマンショック直後の2009年には1000億円を下回る水準で推移していましたが、2019年には4000億円に到達する勢いを見せています。この増加をけん引しているのが大企業からのオープンイノベーション志向の資金。VCファンドへの出資、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)、事業会社からの直接投資です。シードステージの企業を支援し、連携を検討するアクセラレータープログラムの数も、増加傾向にあります」

近年、大手企業もオープンイノベーションに対する取り組みに本腰を入れ始めているが、その背景には何があるのだろうか。藤吉の問いに、JR東日本スタートアップの柴田氏はこのように分析した。

「一言で言えば、将来に対する圧倒的な危機感でしょう。少子高齢化に伴う人口減少社会が、まさに『目に見える危機』として迫ってきているのです。東京圏では、2020年をピークに人口減少基調に入ることが明らかになっていますし、我々の事業基盤の一つである東北エリアに至っては、すでに人口減少のフェーズに突入しています。加えて、大企業にはリアルなインフラがある。そこには外部と連携することによって顕在化できるポテンシャルがたくさんあると思っています。圧倒的な危機感と圧倒的なポテンシャル。これが大企業をオープンイノベーションに駆り立てているのではないでしょうか」

JR東日本スタートアップは、オープンイノベーションによる共創活動を活性化するために、ベンチャー企業に対する出資や協業推進を目的に設立されたCVCだ。柴田氏によると、JR東日本グループ全体でスタートアップとの協業に本腰を入れ始めたのはここ数年の話だが、グループ内では、これまでもオープンイノベーション的なDNAが脈々と受け継がれてきたと明かす。

「振り返ってみれば、鉄道と商業施設の一体化を実現したエキュートは、オープンイノベーション的な取り組みの先駆けだったのかもしれません。鉄道の「聖域」であった駅ナカをお客様目線で再編し、外部の小売・飲食店を配置したことで駅の風景が大きく変わりました。あとは、やはりSuicaですね。Suicaが生まれたことで、我々の生活は大きく変わったと思います。Suicaはソニーが開発した非接触型ICカード技術『FeliCa』を活用していますが、こうした異業種との連携を通じて、顧客体験の向上を実現したという意味で、Suicaはオープンイノベーションの典型的な成功事例の一つと言えるのではないでしょうか」

加えて、ここ数年オープンイノベーション活動が加速度的に広がっている背景として、大手企業とスタートアップをつなぐプラットフォームの存在も大きい。eiiconの中村氏は、どのようにしてそのコンセプトを着想するに至ったのだろうか。

「地方在住の知人が企業を経営しておりまして、事業連携先を探す際にとてもアナログなやり方で候補先を見つけ出し、東京に何度も通う姿を見ていました。それがきっかけで、『より良い事業パートナーともう少し効率的に巡り会える手段はないだろうか』と考えるようになり、eiiconというプラットフォームを立ち上げたのです」



2019年7月末時点で、eiiconを通じて、1万件を超えるマッチング事例が既に生まれているという。その中で、特に印象的な事例を中村氏に紹介してもらった。

「宮崎県でカツオの一本釣り漁船を操業する浅野水産は漁師の高齢化に悩み、ベテラン漁師の勘と経験をどうにかして後世に伝えられないかという課題意識を抱えていました。そこで、eiicon上で同社が実現したいビジョンを掲載したところ、データサイエンスのスタートアップ「FACTORIUM」とのマッチングが実現しました。現在、両社は上記の課題解決に向け『航海日誌をAI化するプロジェクト』に取り組んでいます」

宮崎県の水産会社と東京のAIスタートアップという、一見するとまったくかけ離れた企業同士が出会うきっかけを創出することが出来たという点で、非常に印象深いケースの一つだと中村氏は語る。

地方自治体との協業の動きも積極的に

企業間の協業といったケースを連想しがちなオープンイノベーションだが、最近では、地方自治体も含めた新たなオープンイノベーションも登場している。中村氏は、最近の事例として仙台市のケースを挙げた。

「仙台市から依頼をいただき、仙台に球場を持つ楽天イーグルスとともにエンターテックの仕掛けを考案するアイデアソンの企画運営をしました。通常、我々はWEBプラットフォームとして場を提供するというハンズオフ型支援をメインとしていますが、必要に応じこのようなオープンイノベーションの方法論をインストールするというハンズオンでの支援も実践しています。地方自治体は日本のオープンイノベーション実践浸透においても重要なキーファクター。実践手法が各地に広まるようお手伝いできたらと考えています」

大手企業が地方自治体との協業を積極的に取り組む動きについて藤吉が尋ねると、柴田氏は、JR東日本スタートアップが青森県や青森市と連携し、アクセラレーションプログラムを実施した例を紹介した。

「スマホ決済サービス『Origami Pay』を提供するOrigamiと協働し、JR東日本グループの施設を含む青森駅前商店街をキャッシュレス化する実証実験をしました。地場の居酒屋や喫茶店のオーナーの皆さんに、青森商工会議所の方々がキャッシュレス導入の有用性を丁寧に説明していただいたこともあり、非常に実りのある結果となりました。地方自治体と大企業とスタートアップ、この3者の叡智が上手く組み合わさればとてつもない力が発揮されることを、身をもって知るきっかけとなりましたね」

一方、地方自治体特有の困難もあるようだ。中村氏は自身の実体験を踏まえ、こう語った。

「地方自治体向けのオープンイノベーションとなると、ステークホルダーが増えることもあって、取り組みの難易度はさらに上がります。また、これは地方自治体に限った話ではありませんが、人事異動で担当者の方が数年おきに変わってしまうことも、オープンイノベーションの推進を図る上で障壁になる場合があります」

グローバル展開の先に米中企業との熾烈な競争

日本のオープンイノベーションの今後を占う上で、石井氏はグローバルのプレイヤーとの熾烈な競争も意識しなければならないと強調する。

「ウェブの覇権争いでは、日本は海外勢にリードを許しました。しかし日本にとって可能性があるのは、ウェブとリアルがつながる領域だと考えています。具体的に言えば、ロボティクスやAI/IoTの社会実装といった分野ですね。リアルとバーチャルをつなぐところに、日本の勝ち筋があるという議論を政府の中でも行なっています。また、健康医療や新素材などにつながるディープテックにも優位性があります。それを活かすため研究成果の事業化をスムーズに行う仕組みを強化することが重要となっています」



中村氏は、石井氏の発言に同意しつつ、今後の日本企業の戦い方について「あくまで私見ですが」と前置きした上で、以下のように語った。

「ある程度、国内で腰を据えてサービスを育ててから海外マーケットに挑むやり方が望ましいのではないかと個人的には考えています。いきなり海外で戦うのではなく、まずは日本国内でクオリティを高め、その上で、そのサービスを輸出するといったイメージです」

もちろん、日本ならではの強みもある。例えば、少子高齢化が世界で最も進展している国は日本であり、「課題先進国」であること自体が他国に対する競争優位性となる。中村氏によると、日本企業との連携の可能性を求めて、海外のプレイヤーからも毎週のように協業に関する問い合わせが寄せられているという。

「様々な国の大使館や商工会議所の方々が毎週のように訪問されます。欧州・アジア、時には地球の反対側の国の方がいらっしゃるケースも。本当に様々な方とお会いしています。非常に有意義な提案をいただくケースもあるのですが、個人的には、今すぐに海外と連携するのではなく、日本国内でオープンイノベーションの手法・やり方をある程度確立させた上で、海外と連携するのが良いのではないかと考えています」

オープンイノベーションの精神を次世代に引き継ぐために

以上の議論を踏まえた上で、藤吉は「今後、オープンイノベーションの文脈において、日本はどの方向に舵を切れば良いか」と尋ね、柴田氏はこう述べた。

「日本だからこそできるオープンイノベーションの形があると思っています。未曾有の人口減少社会という課題を解決する上で、新たなテクノロジーやビジネスモデルが必ず必要となる。例えば、スマートシティやMaaS、ものづくり日本のDNAを生かしたリアルテック。「課題先進国」だからこそ、そうした領域に日本ならではのイノベーションが生まれる可能性は十分にあるのです」



柴田氏は、スマートシティの分野に可能性を感じているという。また、日本型のオープンイノベーションを実現するためには、失敗を許容する企業文化の醸成が重要なポイントだと語る。この点について、石井氏も柴田氏と同様の見解を示した。

「スウェーデンには人類の過去の失敗作を褒めたたえる博物館があります。シリコンバレーでは、良い失敗は投資の際の加点項目になります。偉大な成功には数多くの失敗がつきものであり、オープンイノベーションを推進する上でも、失敗を許容し、失敗から学ぶポジティブな態度が何よりも重要です。最近、どんな失敗をしましたか?と聞かれたときに、答えられないのはチャレンジしていない証拠。失敗を恐れずチャレンジする動きを拡大したいところです」

伝統的な日本企業ではこれまで、減点主義的な企業文化が幅を効かせていたが、最近では、失敗を許容する企業文化を育む土台が整い、ベンチャー企業へのリスペクトも生まれてきている。中村氏はこうした変化を「非常にポジティブなもの」と評価する。

「ここ数年、大手企業では、新規事業開発を経験された方が経営トップを務めるケースが出てきています。それに伴い、企業文化も良い意味で変わりつつある。そして、ある企業を退社された方が他社への転職や起業を経て、『出戻り』するケースも増えています」

オープンイノベーション自体は単なる方法論であり、手段に過ぎない。しかし、その仕組みを活用し、自前主義の枠を取り払うことで、本来備えているポテンシャルを解き放つことが出来る。「そうすれば、日本企業が世界のイノベーションをリードする存在となりうる」と、藤吉は総括した。

日本のオープンイノベーションは、まさにこれからが本番だ。


【OPEN INNOVATION NEXTSTAGE】
-オープンイノベーションは、次のステージへ-

#1 オープンイノベーションとは何か?今、あらためて問われる本質的な価値
#2 変わりゆく、オープンイノベーションのかたち 開き始めた大手企業の扉
#3 本記事|オープンイノベーションが生み出す 未来への可能性 日本企業が世界をリードする存在となりうる

Promoted by eiicon  文=勝木健太

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