日本が誇る若手アーティスト、井田幸昌が「一期一会」を描く理由 #UNDER30STYLE

アーティスト 井田幸昌


アジャンター石窟群やエローラ石窟群では、多くの遺跡に出会いました。

1000年以上同じ場所にあり続ける遺跡の前に立って、当時の職人たちの姿勢を想像して、目には見えない大きな力に突き動かされるような感覚を覚えました。自分も時を超えて人に美しさを超えた何かを感じさせる物をつくりたいという願望が芽生えたのは、そんな旅の最中でした。

ムンバイの幼い少女との出会いや、遺跡を目の当たりにして圧倒された経験、ガンジス川の前で焼かれる、カースト最下層の人々の死を目にした場所のすぐ側を歩く富裕層を見て感じたこと──。インドの旅の全てが、その時しかない一瞬の出来事の連続でした。

人生は二度と起こる事のない瞬間の連続なのに、日常生活ではそれを感じることができていなかった自分に気付かされました。そんな尊い瞬間や時間、つまり「一期一会」を描こうと思いました。インドという、遠く離れた文化も価値観も違う国を訪れたからこそ、出会うことができたテーマです。

「将来何がやりたいかわからない」という若い学生に、何かが見つかることを期待して、いわゆる「自分探しの旅」へ出ることを僕は勧めません。

だけど、毎日の生活の中で出来上がっている流れを壊す手段として、海外に目を向けることは効果的だと思います。多角的な視点を持たなければ、思想にも偏りが生まれるとも感じています。

創作の過程でもキャリアにおいても、リスクを取るのは簡単なことではありません。でもアーティストも人としても、日々成長したいと思っています。落ち着く環境から距離を置いて、知らない国に足を運ぶことは、間違いなく刺激になります。

──アーティストになった今だからこそ好きな国はありますか?

インドへ行った日本人は、「二度と行きたくない」派と「もう一度訪れたい」派に分かれると言いますが、僕は断然後者です。今度は北インドの方をゆっくり巡ってみたいと思っていますが、なかなかまとまった休暇を取ることができず、難しいですね。

最近では仕事で海外へ行く機会があれば、プライベートの時間も現地でなるべく多く過ごすようにしています。ヨーロッパは頻繁に訪れていますが、6月に行ったスペインは、気に入っている国の一つです。

ソフィア王妃芸術センター、ピカソ美術館、プラド美術館など、素晴らしい美術館で時間を過ごすことができました。

尊敬するアーティストは何人かいますが、スペインでいえばピカソは好きですね。時代ごとに作風が変わりながらも、十数万にも及ぶ作品をこの世に残したアーティストは他に存在しません。アメリカでいえばバスキアもそうですが、僕が魅かれるのは、自分にはない感覚を持っているアーティストです。

ピカソやバスキアの作品は日本で観ることもできますが、彼らが生活をしていた土地で観るのとでは、作品から得られる情報が全く異なります。

バルセロナの街を歩いていている女性はみんな綺麗で、ピカソが92歳で亡くなるまで多くの女性を描き続けたことや、彼のとった手法に対しても妙に納得がいきました(笑)。
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構成=守屋美佳 藤井さおり=写真

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