今回、自身の旅の経験を語ってくれたのは、2018年の「アート」部門受賞者の井田幸昌。
2016年、ZOZOの前澤友作が会長を務める現代芸術振興財団が主催する、若手アーティストのアワード「CAF賞」で「審査員特別賞」を受賞。翌年には「レオナルド・ディカプリオ基金」のチャリティオークションへ最年少で参加したことでも話題を呼んだ。
世界各国のコレクターが作品を所蔵したがる井田の創作テーマは「一期一会」。
このテーマが形になったのは、ある出会いがきっかけだったという。7月に銀座蔦屋書店 GINZA ATRIUMでの個展「Portraits」を終えたばかりの彼のスタジオで話を聞いた。
──この数年は日本国外でも展示会を開催されています。以前から海外へ出る機会は多くあったのでしょうか。
今となっては仕事でもプライベートでも頻繁に海外を訪れていますが、初めての長期の海外経験は東京芸術大学1年生の時。南インドに1カ月ほど滞在しました。
もともと旅が好きだったという訳でもなく、インドに行きたいなんて思ったこともありませんでした。
大学に入学したばかりの頃に顔を出した飲み会で、今も親しくしている教授に「一緒にインド行かない?」と言われて、たいした考えもなく即答で「はい」と答えてしまったんです。
心のどこかで、会話の流れででた軽い誘いかと思っていたのですが、数カ月後には友人2人とその教授の4人でインドにいました。「インドに行くのはインドに呼ばれたから行く」と誰かが言っていましたが、今思えばそんな感じですかね。
ニューデリー、デリー、ムンバイなど、転々と各都市を巡った中で、特に印象に残っている瞬間があります。ムンバイのスラム街で、服も着ていない5歳くらいの女の子が、道端に落ちている肉片を拾って、すごく幸せそうな表情で去って行ったのを見た時です。
僕たちのような恵まれた環境にいる人間たちからすれば、触れることすら拒むようなものですが、それがきっとその日の彼女たちの食料になったのでしょう。
将来のビジョンが決して明快ではなかった当時の僕は、過酷な環境の中でも笑顔で、そして必死になって生きている彼女の姿を目にして、頭を殴られたような衝撃を受けました。