それはつまり、競合する米アップルに優位性を与えることになる。モバイルソリューションのプロバイダー、バリッド(Valid)のバイスプレジデント、ローランド・エルナンデスはこの点について、次のように指摘する。
「韓国と日本の対立は、主にサプライチェーンの面において、アップルの優位性を高めることになる」
日本と韓国の間の緊張が高まることは、過去にもあった。それらは、およそ100年前の問題に関する両国の国民感情に根付いている。日本が1910~45年に朝鮮半島を占領したことは、両国の関係に今日まで残る傷を残している。
現在高まっている緊張について、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、同国の最高裁が日本企業に元徴用工への賠償を命じたことに対する日本の報復が原因だと非難している。だが、日本は徴用工の問題を、1965年に日本が韓国に約8億ドル(現在の為替レートで約857億円)の経済支援・融資を行うとしたことで解決済みだと主張している。
こうした中、貿易を巡る両国間の緊張の高まりは、勝者と敗者を生み出そうとしている。敗者はサムスンをはじめとする韓国のスマートフォンメーカーだ。今後、韓国でスマホが値上がりすれば、同国の消費者も敗者になる。
一方、勝者は中国のスマートフォンメーカー、そしてアップルなどのサムスンと競合する米国企業になると考えられる。
アップルは、エンドマーケット(端末市場)においてはサムスンの競合相手であると同時に、中間財市場(部品)においては同社の顧客だ。そのため、主要な化学製品3品門に対する日本の輸出規制は、アップルにも影響を及ぼす。
エルナンデスによれば、「アップルの有機ELディスプレイ(OLED)やiPhone、半導体メモリーのDRAMやNAND型フラッシュメモリの主要なサプライヤーは、サムスンやLG電子など、いずれも韓国企業だ」。だが、アップルは調達に関してすでに新たな計画を立てており、影響はサムスンに比べて小さなものにとどまるとみられる。
アップルは昨年来、これらに関連した技術について、中国のBOEテクノロジーグループ(京東方科技集団)と協議を行っており、貿易を巡る米中の対立には関わりなく、継続的な供給を確保することを目指してきた。そして、エルナンデスによるとアップルは、日本と韓国の問題を受け、「新たなサプライヤーを確保した」とみられる。
一方、米中間の貿易問題がある中で、サムスンが中国で新たなサプライヤーを見つけることは今後、さらに困難になると考えられるという。
「サムスンは昨年、自社の生産技術を直接競合するBOEに流出させたとして、中国のベンダー1社の複数の従業員を起訴している」