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新・パリのビストロ手帖


ところで、私は、鶏の唐揚げが大好きだ。フライドチキンも大好きだ。だけれど、残念ながら、それらに該当するような揚げた鶏の料理が、フレンチだと見当たらない。そう思いながら10数年を過ごしてから、出合った。これはフライドチキンの最上級形ではないか! というひと皿に。

正確には、それは鶏ではなくて、鴨肉だ。ラ・フォンテーヌ・ドゥ・マルスの鴨のコンフィ。肉自体が違うのだから、ほぼ別物だけれど、香ばしく力強い皮目、しっかりと効いた塩加減、そしてジューシーな肉。



じっくり揚げ煮されハーブの香りをまとった鴨の腿肉は、そのパンチある味わいに、ともするとちょっとジャンキーな味に転びそうだが、そこではたと思った。私が幼い頃に大好きだった、かのファストフードのフライドチキンは、こんなおいしさを実現したくて出来上がったのでは? 真偽のほどは分からないが、なにしろ食べ応えのある一品だ。

もともとがコンフィは保存食であるし、塩味は決して控えめではない。そして、ついてくる小粒なジャガイモのコンフィも、鴨肉に負けず劣らずのおいしさなので、万全な体調で注文したい料理である。

この鴨のコンフィと自家製ソーセージが入ったカスレ(白いんげん豆の煮込み)は、この店の名物のひとつだ。マダム・ブドンが、白いんげん豆で名高いタルブ村の出身で、毎年8月の終わりに買い付けに行く。その量、1トン。出切ったら終了。なので、カスレはレギュラーメニューには載っていない。その日のオススメが記される黒板メニューの最後の方にある。そして、たいてい6月の初めには、メニューから消える。



取材の日も、毎年パリを訪れるというブラジルのご婦人が、「このカスレを食べたくて予約したのに、無いなんて!」と嘆いていた。もう70歳をとうに超えているのに、カスレを食べに毎度やってくる常連客もいる、人気の品だ。

鴨のコンフィは、92年のオープン時から欠かさずに出し続けている料理の1つで、他に「27年選手」が4品ある。前菜では、卵の赤ワイン煮込みがそうだ。一般的にはブルゴーニュ料理だが、ここは南西部の料理が得意で、ゆえに南西部のワイン、マディランを使う。卵好きにはぜひ食べていただきたい。前菜なのに、もうここで食事が終わってもいいかも、と思うくらいに充ち足りる。

卵つながりでいうならば、ウフ(ゆで卵)マヨネーズも、卵料理の奥深さを実感できる一品だ。

3人以上での食事なら、前菜はテット・ドゥ・ヴォー(仔牛頭肉)の温サラダを。香味野菜のブイヨンで煮込まれたゼラチン質な肉が、ジャガイモを伴い、エシャロット、パセリ、チャービルなどふんだんなハーブに、シェリーヴィネガーとマスタード、ヘーゼルナッツオイルをアクセントに加えたラヴィゴット・ソースで和えてある。このほんのり温かくて、酸味の効いたいかにもフレンチなサラダが、どうにもクセになる。

文・写真=川村明子

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