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日本から食の世界を変える「革新者」が生まれるかもしれない

20代のころの私は、「料理の進化論」について考えていました。

「とにかく新しいものを狙え」という先代のアドバイスのもと、彗星のごとく現れるシェフたちのアイデアや技術にアンテナを張り、世界中のほとんどの料理を味わいました。が、実際に目新しい料理を出していたシェフは片手に数えるぐらいしかいませんでした。

新しいことをしなければ、世界は変わりません。

昨年亡くなったポール・ボキューズは、従来のフランス料理よりも調理時間を短縮し、ソースにも生クリームやバターをあまり使わず、あっさりと軽いものに仕上げるなどして、料理界に新風を吹き込みました。

「エル・ブリ」のフェラン・アドリアは分子ガストロノミーという概念を提唱することでさらに革命をもたらしました。

これからの時代にも、当然、世界を変える料理人が出てくることでしょう。ただし、その手法は変わってくるのではないかと私は思っています。

数年前のことですが、デンマークのレストラン「ノーマ」のレネ・レゼピが国家規模の後ろ盾を得ながらプロモーション活動を行い、世界的な注目を集めたのがいい例です。

料理人が一人の力で変えられるのは、あくまで作品としての領域を出ないものかもしれませんが、この例は、料理人の社会的地位が時代と共に変わり、いまや、大きなプロジェクトの中のひとつのエンジンとして機能するようになってきた、という大きな変化を表しています。

世界で勝負できる日本人シェフが増えていますので、今後、デンマークのような動きが日本でも起これば、日本人シェフが世界に激震を与える「食の革新者」になることもあり得るでしょう。

変化を常に受け入れ、客観的に「いま」を読み解き、未来につなげていく。

教育者としてそんなアプローチを続けながら、これからも世界に羽ばたく天才料理人たちを輩出していきたいと思っています。


つじ・よしき ◎ 大阪府生まれ。父・静雄氏の跡を継いで、1993年、学校法人辻料理学館 理事長、辻調理師専門学校 校長に就任。2019 年 のG20大阪サミットでは首脳夕食会のエグゼクティヴ・プロデューサーを、00年の九州・沖縄サミットでは首脳晩餐会の料理監修を務めた。また、料理人発掘コンペティション「RED U-35」の審査委員長を務めるなど、さまざまな形で食文化の発展に貢献。18年にはフランスと日本の料理の架け橋となったことが評価され、フランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章した。

辻 芳樹がフード部門のアドバイザリーボードとして参加した「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者は、8月23日に特設サイト上で発表。世界を変える30歳未満30人の日本人のインタビューを随時公開する。

昨年受賞者、「スーパーオーガニズム」でボーカルをつとめる野口オロノや、昨年7月にヤフーへの連結子会社化を発表した、レシビ動画「クラシル」を運営するdelyの代表取締役・堀江裕介に続くのは誰だ──。

文=甘利美緒 写真=小田駿一

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