「嫌なやつ」と付き合えばアイデンティティは磨かれる|辻 芳樹 #30UNDER30

学校法人 辻料理学館 理事長/辻調理師専門学校 校長 辻 芳樹 

2020年に創立60年を迎える辻調理師専門学校。その2代目校長を務めるのが辻 芳樹だ。

創業者である父の静雄氏から英才教育を受け、12歳でイギリスのパブリックスクールへ単身留学。15年に及ぶ海外生活を経て、料理人を育てる教育者の道へ。次世代を担う「食のプロ」を輩出しながら、食の最前線を研究し続けている。

今回、30歳未満の次世代を担うイノベーターを選出する企画「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」のフード部門アドバイザーとして選考に加わってくれた辻は、これから世界で活躍しようとするUNDER30たちに、どんな言葉を贈るのか。自身が幼いころのエピソードも交え、縦横無尽に語ってくれた。



「調理場だけで通じるナレッジで満足していてはならない」

これまでの料理界では、年齢序列や徒弟制度といった因習が重んじられていました。たとえ労働環境が過酷であっても、我慢して食らいつき、師匠の技を盗むことが美徳だとされた。みんながそれを信じて疑わなかったのです。

しかし、時代は変わりました。学生たちを見ていると、盲目的に修行に身を投じるのではなく、自分の目的を達成するためにはどれだけの資金が必要か、どれだけの技術力を持てば事足りるのか、といったようなことを冷静に分析しているように感じます。

日本におけるフランス料理界全体でも、大きな変化が起きています。これまで日本人はフランス料理を模倣し、再現の精密度で勝負してきましたが、いまはそれを超えるとき。日本人ならではのオリジナリティ溢れるフランス料理が本場でも認められるようになり、フランス料理の未来を「共に創造する」ステージへと進んでいる実感がありますね。

このように変化する状況の中で、日本の料理人たちがすべきなのは、調理場の外に意識を向けることです。

私は辻調理師専門学校の校長に就任して以来、教育者として、「調理場だけで通じるナレッジで満足していてはならない」と学生たちに口酸っぱく言ってきました。

具体的には、調理法や技術だけではなく、扱う食材、日本の農業や水産業の現状、あるいは日本の歴史や文化などについても広く知識を持つように教えています。

その知識を自分なりに解釈して昇華させ、「料理」に落とし込むこと。調理場以外のナレッジを増やすことこそが、料理のオリジナリティ、つまり独創性を生むことにつながるのです。こうした総合力こそが、これからの料理人にはいっそう求められるのではないでしょうか。
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文=甘利美緒 写真=小田駿一

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