ビジネス

2019.08.01

世界「最低」性能で挑むロケットビジネス革命


実際、国のロケット打ち上げには数億から数十億円がかかるが、「MOMO」の場合は数千万円で1桁以上も安い。自動車部品や玩具のモーター、ドローンのジャイロセンサーや仏壇用ロウソクなど、一般に入手可能な汎用品を使っているからだ。

さらに、発射場と工場を近い距離に配置し、設計から製造、試験のサイクルを短期間で行える環境を整備している。課題が見つかれば、改善策を施して、すぐに実験ができるのだ。

「MOMO」では、2度の失敗を経験した。しかし、稲川にとっては成功に向けた実験に過ぎなかった。

「失敗は挫折ではありません。失敗することで課題が見つかり、技術的な進化が見込めます。得られるものは多いんです」

ISTが最終的に目指しているのは、安価で手軽に人工衛星などの貨物を宇宙に運べるロケットビジネスの展開だ。近年、超小型の人工衛星を開発するベンチャー企業が急増しており、「運送屋」としての需要は今後数年で1〜2万機と試算されるほどに拡大しているが、一方でロケットは高価なうえに数が限られている。ISTは、全長22mの2段ロケット「ZERO」の開発も進めており、完成すれば宇宙ビジネスは大きく変わる。「宇宙」の敷居が下がり、これまで資金不足などで手を出せなかった企業が、安価なロケットで新ビジネスに挑戦できるからだ。これこそ、「みんなのロケット」の真義である。

ハードルは高いが、宇宙到達を実現し、次なる挑戦に着手した稲川。その原動力となるロケット開発の魅力について、彼はこう話した。

「打ち上がった時の体験が最高すぎて。だから作っているんです。実際に現場で見てもらえれば、きっとこの感覚がわかりますよ」

文=畠山理仁

この記事は 「Forbes JAPAN 社会課題に挑む50の「切り札」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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