これまでにないビジネスモデルで新たな市場を創出し、急成長を遂げるユニコーン企業が、世界的に注目を集めている。日本でも、そんな企業になり得る可能性を秘めたスタートアップが続々と生まれている。
日本発「世界で勝てる」スタートアップ「我々は、日本に留まる気はまったくない」
200名を超える起業家たちを前に、創業2年目を迎えるスタートアップIcaria(イカリア)代表の小野瀨隆一は、力強くこう言ってのけた。
7月19日に開催された「Forbes JAPAN Rising Star Meet-up」のピッチイベントに登壇した小野瀨は、自社が開発した技術を武器に、日本のみならず「世界で」勝ちにいく、と宣言したのだ。
大それた野望と受け流す観客は、おそらく一人もいなかったろう。会場で小野瀨のプレゼンに耳を傾けていたのは、創業3年目以内のスタートアップ起業家と経営陣で、彼らもまた、「世界を変えられる」と本気で信じているからだ。
アメリカン・エキスプレスの法人事業部門を統括する副社長でジェネラル・マネージャーの須藤靖洋も、その力を信じる一人だ。アメックスは、世界に大きなインパクトを与える可能性を秘めたスタートアップ“Rising Star”を応援するというコンセプトに共鳴し、本イベントへの参画を決めた。
立ち見客が大勢出るほど盛況だった「Forbes JAPAN Rising Star Meet-up」。「孤軍奮闘するスタートアップを創業当初から支え、その企業が世界を変えるような大企業に育っていく間、常に寄り添っていたいという思いが強くあるからです」と須藤は言う。
産業構造の大転換期を迎えている今、未来の新産業創造の担い手として、スタートアップの存在感が増している。だが、アメックスが個人事業主・中小企業向けの「ビジネス・カード」を日本で発行したのは今から15年も前。マーク・ザッカーバーグがハーバード大学の寮でフェイスブックを立ち上げた、2004年のことである。
スタートアップ草創期からベンチャー企業に寄り添い、その成長を支えてきたアメックス。一方、Forbes JAPANは14年の創刊以来、スタートアップに注目してきた。世界的起業家をいち早く紹介し、日本の起業家ランキングを発表するなど、起業家精神の重要性を伝えてきた。
そんな双方の思いが重なり、実現に至ったのが今回のイベントだった。目玉となるピッチには、創業3年目以内のスタートアップ約300社の応募があった。その中から冒頭のIcariaを含む8社が選出され、イベント当日、熱いプレゼンを繰り広げた。
(左)AIで自動運転社会の実現を目指すアセントロボティクスのイヴォ・ティモテオ。(右) Icariaの小野瀨隆一。(左)Linc’wellの金子和真は、ITフル活用の次世代クリニックをプロデュース。(右)日本初のオンライン完結型のファクタリングサービスOLTAの澤岻優紀。(左)Luupの岡井大輝は、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスの提供を目指す。(右)AIによるパーソナライズ教材を提供するatama plusの稲田大輔。(左)超音波技術を活用した乳がん検査装置を開発するLily MedTechの東志保。(右)秘密計算とAIの研究開発を行うEAGLYSの今林広樹。
5年後、10年後の成長に期待が持てるIcariaは、尿検査によるがんの早期発見を目指す気鋭のベンチャーだ。同社が開発する独自のデバイスを活用すれば、たった1mlの尿で、高精度でがんを検出することができるという。また肺がんでは、予後が良いとされているステージⅠ〜Ⅱの 早期段階でも検出することができる。さらには、がん種の識別も可能としている。
そのビジネスモデルは、意外なほどシンプルだ。Icariaの技術を導入している病院で尿検査を行うと、1週間後には検査結果が通知される。20年夏には一部プロダクトをローンチ予定だ。
がんの早期発見、それも患者が痛みを感じることなく、正確な診断ができる。それだけでも驚きだが、Icariaが目指しているのは、診断から治療法の提案、再発管理まで一気通貫で行うことだという。
審査にあたった須藤は「まさに世界を変える技術」と目を見張る。
「実用化されたら、Icariaはものすごい勢いで出資を受けるでしょうね。5年後、10年後には、世界的企業に成長しているかもしれません」
実際、Icariaはグローバル展開を視野に入れ、すでに動き始めている。その足がかりとして、まずはアメリカに拠点を構えるという。今後は日米両国で、1万以上の検体で臨床試験を行う。目指すのは、人類が4000年にわたり苦闘してきた「がんとの戦い」に、終止符を打つことだ。
がん治療に光明をもたらす画期的な技術開発に加え、グローバルでの活躍が期待されることから、Icariaはアメックス特別賞である「Powerful Backing Award」受賞企業に選ばれた。
「世界を変える企業」誕生の萌芽を見る思いだった、と須藤は語る。
「グーグルもフェイスブックも、個人事業主から始めて、やがて世界的な企業へとなっていきました。Icariaも、今はベンチャーですが、5年後は世界を変える企業になっているかもしれません。アメックスはこうしたスタートアップに寄り添い、支援し続けるパートナーでありたいと考えています」
会場の外でも起業家同士が熱心にネットワーキングに勤しんでいた。企業が成長していく過程をずっと支えていくというのが、アメックスの姿勢であり、強みだと須藤は言う。スタートアップとして産声をあげた瞬間から「ビジネス・カード」の申し込みができ、海外進出の際にも心強い味方となる。会社の規模が拡大したら大企業向けの「コーポレート・カード」に切り替え、規模に応じたバッキング(支援)を受けることもできる。
「世界を見据えている企業にとって、アメックスは成功へのパスポートのようなものなのです」
米フォーチュン誌が発表する全米上位500社リスト「Fortune 500」に載る企業の63%がアメックスの法人カード会員という事実が、何よりの証しだろう。
そう、ビジネスには、これがいる。アメリカン・エキスプレス