テレビに愛されるトランプ氏と、米放送業界の「イコールタイム・ルール」

(ドナルド・トランプ大統領に扮した俳優・アレック・ボールドウィン GettyImages)


さらに言えば、この「イコールタイム・ルール」もどんどん緩和されて、今は当初の目的を果たさないものになっているという別の問題もある。もともと、放送事業者の取り上げ方によって選挙の結果が左右されることを避けるため設けられたルールだったが、1970年以降は「ニュースイベントの実況放送」「ニュースインタビュー」などが適用外となり、骨抜きの状態になっている。

トランプとテレビは、実は「Win Win」だった

例えば、大統領の記者会見は「ニュースイベントの実況放送」に該当するとして、「イコールタイム」の適用外だ。しかし、現職の大統領が記者会見で自らの選挙戦に関するコメントをすれば、再選に有利になるため、これには市民団体などから批判がある。また、放送局が大統領候補者の中でだれを選んで討論会を主催するかも、「実況放送」のため、規制がかからず、放送局に過大な力を与えているという批判がある。ニュース、インタビュー、記者会見、討論、党大会などの選挙の行方に大きな影響を与える局面を放送局がどう伝えるかは、いわば「野放し」と言っていい。

ところが「サタデー・ナイト・ライブ」のようなバラエティー番組では、なおこのルールが適用されている。

例えば、2015年10月、ヒラリー・クリントン氏が「サタデー・ナイト・ライブ」に3分12秒出演した際、同じ民主党の候補者がNBCに対して、同じ時間の出演を要求した。2015年11月にトランプ氏が同番組に12分5秒出演した際にも、共和党の別の候補者4人が同等の放送時間を要求し、NBCはこの要求に応じている。

形骸化した「イコールタイム」によって、一番得をしたのは、実はトランプ氏だろう。トランプ氏が大統領選に出馬してから、とくに選挙戦の序盤は、テレビ各局はトランプ氏の演説を延々と流すことが多かった。有名人で演説が面白いトランプ氏を取り上げれば、視聴率が上がり、広告収入の増加が期待できるからだ。

3大ネットワークの一つ、CBSのレスリー・ムーンベス会長(当時)は2016年2月、メディアやIT関係者が集まるイベントで、「こんなのは見たことがない。我々にとって良い年になる。ドナルド、このままの調子で行け」「アメリカにとって良くないかもしれないが、CBSにとっては全くすばらしい」などと発言した。本人は、後に冗談だと釈明したが、つい本音が出たとの見方が強い。テレビ番組の人気ホストとして知名度を上げたトランプとテレビは、「Win Win」関係の面が色濃いのである。
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構成=石井節子

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