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2019.07.31 20:00

クルマで旅して目指すほどの「天才」とは ミシュラン三つ星の「真の意味」

Getty Images


「スペインのバルセロナあたりは天才の聖地ですよ。ミロもダリもピカソもガウディも皆、あの辺りから出てきたでしょう? フランコ軍事政権に反対して独立運動も激しくて、人々は自分の意思をはっきり表示しました」
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同政権が倒れると、情熱と独創性がほとばしったカタロニアからは多くのシェフやアーティストが生まれている。

世界一予約が取れないレストランとして名を馳せた「エル・ブリ」が一例だ(編集部註:2011年に閉店)。同店のフェラン・アドリア料理長は料理の世界を変えた。やはり、彼も「人のマネをするな」と師に注意されて育っている。素材にまで遡って、伝統的なレシピの「再構築」を試みる彼のもとに、多くのアーティストが食べに来た。そしてそのキーワードは、やがて哲学として、アート・音楽・文学・ファッションへと影響を与えていく。スペインには、天才が続々と登場し、それは南米へも伝達されていった。

さて、有望な若き天才シェフは誰か? 山本が名前を挙げたのは、宮古島のリゾート「紺碧」のレストラン「エタ・デスプリ」の渡真利泰洋シェフだった。それはまさに「天才」のフレンチだったと振り返る。その後、パリで最新の味を経験した渡真利はいま、独創的な素晴らしいフレンチを創っているという。
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そしてもう一人、山本が昨年見出したのは、中国・杭州にある「鮨一」の職人。23歳のその人物は、独学ですでに名人の境地に達している。名店「すきやばし 次郎」の小野二郎を描いたドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』を観た彼は、そこに登場する山本が自分の目の前に現れたのでアっと驚いたそうだ。「ぜひ日本で勉強したい」と話す若者だが、「寿司はもう十分。彼には日本料理の神髄を学んでほしい」と山本は語る。

「自分が見出した天才が、やがてミシュランの三つ星を取ったら、それはとてもうれしいことでしょう」と山本は笑った。

ただ、山本は「日本のミシュラン審査員は少し甘いかもしれない」とも指摘する。

「東京には三つ星のレストランは13軒ありますが、僕の評価では3軒だけ。星を付ける条件は、『食材の質、味のよさや料理の技法、料理にみるシェフの素顔・性格、バリュー・フォー・マネー(金額に見合う価値)、審査員がどれくらい頻繁にお店を訪れているか』、この他に、調理場やお手洗いの清潔感なども評価しますからね。トイレがなければ、星が取れるはずがないでしょう。少なくとも、フランスではそうだけどね」と山本は厳しく指摘する。

「日本のミシュランは、寿司や蕎麦、ラーメンにも星を付けますが、フランスのクレープ専門店、イタリアのピッツァ屋など、単品の店は評価対象になってない。そういう名人は都会にいますが、天才は鄙にもいる」(山本)

料理は他の芸術と違って、同じ時代の空気を吸っていなければ享受できない。予約を取り、自らそこへ足を運ばなくてはならない。その時代に、自動車や飛行機で旅して目指すほどの「天才」だけが三つ星に値する。料理の哲学を探しに旅するのが、ミシュランガイドなのだ。


ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。

文=ピーター・ライオン

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