私は仕事上、年間100台以上の新車に試乗する。クルマにとって重要な“クツ”といえるタイヤもよくテストする。
やはり試乗する新車のほとんどが、世界一のシェアを誇る日本製のブリヂストンか、2位のフランス製ミシュランをつけている。
タイヤはクルマと違って地味な部品だから、タイヤメーカーはより認知されるために、積極的に文化事業に参加している。ブリヂストンはアートギャラリーを運営し、五輪のスポンサーも務める。イタリアのピレリは毎年、世界の美女が出るカレンダーを出している。これは同社いちばんの製品とさえ言われる伝説的なカレンダーだ。
でも、これら文化事業の中で最も注目されているのが、「ミシュランガイド」である。1900年創刊のこのガイドは、タイヤがより売れるように、クルマで旅する人のための地図やタイヤ交換方式、そして旅行中に寄れる美味しいレストランを紹介していた。30年代になってレストランの評価を星の数で表す制度になり、一つ星、二つ星、三つ星でレストランをランキングする現在の形式が導入された。
日本にはフランスと同様に、三つ星レストランが25軒もあると知ったとき、私は驚いた。30年間日本に住んで私の味覚が随分とよくなったのも、当然ではないか。ミシュランの星の総数ではパリは134個。それに対して304個と世界一の東京は、ライバルのフランスと料理の考え方がどう違うのか。料理評論の第一人者、山本益博に話を聞くことに成功した。
「三つ星のレストランの一番のポイントは、食材の質と材料。なぜ値段が高いかというと、材料ですね。もちろん最高の材料を使うのは重要ですが、それ以上に重要なのがシェフです。フランスの三つ星レストランのシェフの8割は天才です。天才でなければ、三つ星が取れない」
当然、日本にも天才はいるが、フランスは天才をつくり出す確率がより高いという。「フランスの学校の授業では、積極的に手を挙げて発言しない子供は能力が低いと言われる。『人と同じことをするな』と教育されて、競争が激しくなる」と語る。
「フランス人は料理の世界では、写真を見るだけで誰の料理かすぐにわかります。そうした記憶力に加え、独創性と想像力がなければ、三つ星が取れません。三つ星シェフの料理を見ると、どうしてこんな料理が考えられるのか、ふつうの頭ではできないことを考え出す能力がありますので『天才』と呼びます」
つまり味だけではなく、才能にも関心があるのだ。独創性を求める教育が、フランスを新しい文化、新しい具材や料理を切り開いていく国にしている。ということは、星の数では東京がいちばんなのに、やはりフランスが料理の世界をリードしているのかと尋ねると、意外な答えが返ってきた。