中田:そもそも「シュプリーム」はまだセレクトショップのいちブランドだったころ、スタッフに大量のステッカーを渡して、それを「街中のカルバンクラインのポスターの上に全部貼れ」って指示したそうなんです。それでカルバンクラインからクレームがきて、ニュースになった。つまり、ニュースになるのが狙いですよね。でも、それは僕にはできない。
それに、「シュプリーム」は洗練されてるけど、「幸福洗脳」は得体のしれない怖さがイメージ。つまり、商品自体がすでに捻られてるから、広告は正攻法でいいと思ったんです。電柱広告とか、今やアナログじゃないですか。でも見つけた人がツイートしたくなる。
尾原:中田さんの中で、あれはどういう意図があるんですか。
中田:「洗脳」って、放送禁止用語でないんだけど、みんながすごく忌み嫌う言葉。そのために、みんな自分が洗脳されてるかもしれない事実からも、目をつむり続けている感じがする。それくらい、「洗脳」っていう言葉は公で使われない。それが「幸福」とくっつけば、パンクスを表現できると思った。宗教は幸福を全面に、明るいイメージの中で語るけど、それをあえて真逆の、悪者みたいな世界観で、カウンターとしてやったら面白いなって。
尾原:「お前らはこういう現実の罠の中で生きてるんだぜ、そこに気づけよ」と。つまり、「俺はそれに自覚的に生きてるんだ」っていうイデオロギーですね。
中田:それが結果的にやばいやつ、みたいに見えるんです。だから尾原さんも、「お金稼げて、やばくなったか中田」って思うじゃないですか。そう思われること自体が、僕には面白いんです。
尾原:やばいやつと思われることが楽しい? それとも、そういうことを試してる過程が楽しい?
中田:やっぱり普通のことをやってお金を稼ぐのがつまらないって思ってる。で、この間肩書きを作ってくれる人と相談して、「マスターマインドエンターテイナー」って肩書きで落ち着いたんですよ。僕はよく「エンターテイナーですね」って言われるんだけど、しっくりこなくて。舞台上の人じゃなくて、仕掛ける人でありたい。というのも、もともと僕が憧れていた芸人さんは、すごくカウンター的な存在だった。芸人は哲学者だと思ってた。
尾原:なるほど、かつての芸人さんというのは、今の時代に対して、新しいものの見方を提示する、まさにパンクだったと。
中田:そう、パンクとかロックとかヒップホップ。その時代のエッジっていうんですかね、そこを目指してやってきたけど、いざなってみたら、お笑い芸人って全然パンクじゃない。めちゃくちゃ空気読まないといけない。そして、めっちゃ権力の世界……。