不景気の兆し? 米国で女性トラックドライバーが増えている理由

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たとえば、アイオワ州にある、世界最大のトラックストップ「アイオワ80」。いわばアメリカのど真ん中、とうもろこし畑の中に位置するここは、トラックドライバーの聖地であり、毎日約5000人のドライバーが、ここで食事を摂ったり仮眠をしたりしている。

敷地は9万2000坪。その中に、2階建てで850坪のきれいな有料シャワーセンターもあり、実際に筆者も使ってみたが、実に清潔で広く、アメニティも完備していて感動した。

2000坪のメインビルディングは開放的で明るく、レストランやファストフード店が入っており、そのへんのモールを歩いているような感覚にさえなる。衣類も、女性が普通に街で着られるような商品がたくさん置いてある。なんと、歯医者もカイロプラクティック師もいる。

これは不景気への入り口なのか?


トラックドライバーという職種は、ただ運転すればいいということでなく、荷物の積み降ろしもやるので、間違いなく力仕事なのだが、ドーリーというタイヤ付きのカートや、トラックの端のリフトを利用することで、力が絶対条件でなくなっているということも女性ドライバー増加の背景にはある。

非営利の経済研究所であるコンフェレンスボード社のガッド・レバノン主任研究員によれば、最大の理由は、好景気による人手不足と、それから社会がますます高学歴化してブルーカラーのなり手が減少しているからだと分析している。なかでも建設作業員に占める女性の急増は、「景気反転の予兆である」との警告も発している。

つまり、労働の需給のバランスが崩れているために、これらの職の時給がバランスを欠いて上昇し、女性の労働者が流れてきたわけで、このバランスの脆弱さが不景気への入り口になりうるという指摘だ。

確かに、トランプ政権で、製造業をアメリカに戻す取り組みのなか、この業界では全米で50万人の労働者不足を抱えている。また、女性のシェアがもともと多かった看護士や介護士などの仕事が時給12ドル平均のところ、トラックドライバーは19ドルだし、製造業では22ドルを稼ぐというから、女性労働者の流入が生まれるのはむしろ当然だ。

WSJは、同じブルーカラーの夫よりも多く稼ぐ女性のブルーカラーのエピソードを紹介しながら、女性の社会進出は切実な家計問題であることが多く、世間が「民度の進化」と語るほど美しい事情だけではないと説明している。

それはそうかもしれないと思いながら、それでも、力仕事だと敬遠することなく、女性でも参入できるように環境を整えてきたアメリカの職場文化の変遷は、歴史上見過ごせない重要なことであり、今後も進化すると思う。
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文=長野慶太

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