グーグルのサンダー・ピチャイCEOは、社内のミーティングでDragonflyがまだ実験段階のものであると説明したが、政府関係者や人権活動家から抗議の声があがっていた。その後、同社は中国での検索事業の再立ち上げを、「当面の間は白紙に戻す」と述べた。そして、7月の公聴会で正式に終了を宣言した形だ。
関係筋からも仮にグーグルが中国市場に進出しても、多大な困難に直面するとの見方があがっていた。米国では共和党も民主党も一致団結して、グーグルが中国と距離を置くべきであるとの声があがっている。
「グーグルの中国事業は今、タイミング的にも非常にまずい」と、テキサス州のビジネススクールMU Coxで国際戦略を教える教授、David Jacobsonは話す。「共和党も民主党も議員らはみんな、トランプが主張する対中強行路線に同調している」
Jacobsonは北京の清華大学の客員教授を務めた経歴を持つ。彼によるとグーグルは「邪悪になるな」という誓いを破り、中国政府の検閲を受け入れた検索エンジンを再始動させようとしていた。グーグルは2006年に中国で検索事業を始動させたが、2010年にGメールが中国国内からと見られるハッカー攻撃を受けたことや、政府の検閲の高まりを理由に撤退していた。
「中国から見るとグーグルが保有するデータは宝の山だ」とセキュリティ企業MonsterCloud創設者のZohar Pinhasiは話す。「仮にグーグルが中国政府からハッキングされた場合、米国の政府や市民の情報が奪われることになる」
しかし、グーグルはまだ中国から完全に撤退した訳ではないとJacobsonは指摘する。同社は現在も北京でAI(人工知能)プロジェクトを進めており、深センにはハードウェア関連の拠点を置いていると報じられている。同社はまた、2008年に買収した北京本拠の検索エンジン「265.com」の運営を継続中だ。
ただし、グーグルが中国事業を継続する場合、中国政府による妨害に直面することは確実だ。ニューヨーク大学の経営大学院NYU SternのNavin Manglani教授は「グーグルに限らず、海外企業にとって中国は難しい市場だ」と話す。
「中国のテック分野の競合は、政府のサポートを受けられるため、海外企業よりも有利にゲームを進められる。中国政府は今後も海外企業に対する警戒心を解かないだろう」
一方で、グーグルが中国政府の意向を汲んで中国で検索サービスを再始動させれば、中国にとっては喜ばしいことになる。「中国側から見れば、グーグルを国内に取り戻せたら、巨大な勝利として宣伝できるはずだ」とJacobsonは話した。