ビジネス

2019.07.29

家事パートナーが共働き世帯を救う。タスカジ和田幸子が目指す「拡大家族」

タスカジ代表取締役 和田幸子


──家事代行は当時、日本では一般的でないサービスでした。立ち上げには苦労されたのではないですか。

ニーズがあることはわかっていたのですが、最初は大変でしたね。家事代行に罪悪感をもっているユーザーさんが多くて、利用していることを他人に言ってはいけないムードでした。

家庭はそれぞれですが、日本の女性には、結婚をして専業主婦になって、家事をすべてこなして初めて一人前、という価値観で育てられてきた方が少なくありません。その人がロールモデルとする自分の母親も、同じように立ち回ってきたわけですから、いざ自分が家事をやらない選択をするとなると、自分のアイデンティティを否定するかのような罪悪感をもってしまうわけです。

これは文化の問題なので、私たちだけで説得して解決するのは難しいのですが、政府が女性の活躍を推進するなかで、家事代行を議題に挙げたり、多くのメディアが特集を組んだり、家事代行がテーマのドラマが放映されたりしたことで、徐々にムードが変わってきました。

私たち自身も、ただ家事をアウトソーシングするだけでなく、外国出身のタスカジさんとコミュニケーションを取ることで、子どもの教育や英語の学びにも役立つといった付加価値をお伝えして、依頼者の方の罪悪感を軽減させてきました。そんな甲斐があって、最近では、「私は使っているよ」と宣言する人や、「こんな使い方がいいよ」と情報をシェアする人が増えてきました。

──仕事で最も「わくわく」するのはどんな時ですか?

私たちが目指しているのは、今いる家族だけでなく、いろんな人を巻き込んで、拡大した家族になろうよという世界観です。それを実際に形にできた時がわくわくしますね。タスカジのシステムにボタン一つを追加するだけでも嬉しいですし、ユーザーさんから「悩み事が解決しました」とお声をいただくと、すごくやりがいを感じます。

自分の必要や好みに合わせた家事を依頼するなかで、ユーザーさんが自ら家事代行の新しい使い方を発見していて、世界観もどんどん広がっています。最初は、外国出身のタスカジさんに、掃除をしながら英語で子どもに話しかけて貰うなど、家事と合わせて外国語を教えて欲しいというもの。その次は、料理の作り置きでした。こちらは、料理が得意な日本人のタスカジさんが増えるにつれて浸透して行きました。最近では、ただ掃除するだけでなく、散らかりがちなモノの収納ルールをつくるサービスも流行っています。整理収納が得意なタスカジさんが、依頼者の方をヒアリングして、ライフスタイルや住まいの導線に合わせたルールを一緒につくっていくんですよ。

──あなたが「来てほしい」と考える未来とはどんなものですか?

すごく抽象的ですが、みんなもっと自由になれたらいいと思っています。既成概念にとらわれて、なかなか自由になれないことってありますよね。家庭という文脈でいえば、核家族という形態は、高度経済成長期の都市化の中で浸透したものに過ぎないですし、専業主婦世帯から共働き世帯に変わってきた現在では、いろいろとゆがみが出ています。ここで考え方を変えないと、みんな家庭がうまく回りません。

最近になって、ユーザーさんの罪悪感が軽減されてきたのは、皆さんが家族のあり方を考え直している証拠だと思うんです。タスカジさんを家事パートナーとして対等な関係で見てくれているユーザーさんが本当に多くて、それって拡大家族のひとつの形じゃないですか。

タスカジさんにサポートしてもらって、自分がやりたいことに、よりフォーカスできることは、新しい自由のつくり方だと思います。みんなが幸せになるために、もっと自由を実行できる環境が整っていけばいいなと思っています。


わだ・さちこ◎タスカジ代表取締役。一般社団法人シェアリングエコノミー協会幹事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。1999年、富士通に入社し、エンジニアとして業務システム製品の開発やマーケティング、新規事業立ち上げに従事。2008年、第一子出産。13年11月、独立起業し、ブランニュウスタイル(現・タスカジ)を設立。

構成=眞鍋 武 イラストレーション=Willa Gebbie

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