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いつ答えが見つかるかわからないし、そもそも答えを見つけられると決まっているわけでもないので、すごく怖かったですね。それに、仕事がない状態はやはり不安。どこにも属さないでいることが、誰からも必要とされず、認められていないことであるような気がして、絶望的な気分でした。会社や組織に帰属することで、無意識のうちに安心感を得ていたのですね。

けれど、そういう孤独のなかで過ごすうちに、背負い過ぎていた自分に対する自信や過信、高すぎるプライドといった邪魔な感情が少しずつ剥がれていきました。余計なものがすべて削ぎ落とされていくと、最後には自分にとって本当に大切なものだけが、まっさらな状態で姿を現す。

仕事を辞めてからちょうど100日経ったころ、ふと自然に出てきたのが「書家になりたい」という言葉でした。それを見つけたときの、すっと心が軽くなった瞬間をいまでも鮮明に覚えています。「心が平安になる」という、人生で初めての経験でした。その感覚は私のなかにしかないものだけど、それを信じてみようと思ったんです。

合気道で学んだのは、自分の内側を見つめる大切さ



自分の内側に目を向けることの重要性を教えてくれたのは、大学一年生のときに始めた合気道でした。合気道の面白いところは、勝ち負けがないこと。単純に、技をかけた人が勝ちになるのではなくて、技をかけられた人も、受け方や、相手の力の導き方を追求していくんです。

極端な言い方をすると、自分を殺しに来た人と仲良くなる、というのが合気道の考え方。勝ち負けや順位がすべてではない、と考えていた思春期の私にとって、合気道の価値観はすごくしっくりきて、すぐにのめりこみました。

時間さえあれば道場に通い、一日中練習することもあったほど大好きでした。あるとき、高熱が出て体が動かせない状態になりながらも、道場に行ったことがありました。

そのときに先生から「風邪は、ある日突然ひどくなるものではない。最初は喉が痛いとか、くしゃみとか、軽い症状から始まって、だんだん悪化していくもの。こんなにひどい状態になるまで気付かずにいたということは、自分の外に意識のベクトルが向きすぎているのかもしれませんよ」と言われてハッとしたんです。「自分の内側こそ、きちんと見つめるべきなのだ」と。

自分を見つめるために会社をやめようと思えたのも、この体験がずっと自分のなかに残っていたから。合気道の先生の言葉が、私の人生の礎(いしずえ)になっています。

文=吉田彩乃 写真=小田駿一

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