映画は怒りと感動で撮る。NY在住ドキュメンタリー監督の「パッション」

映画監督 佐々木芽生


──インドにはどのくらい滞在されていたんですか?

4カ月位です。もともと2、3週間のつもりだったんですけど、インドがあまりに魅力的で滞在がどんどん延びていきました。でもお金は数週間分しかもってこなかったので、すぐに底をついてしまって。途中から、持ってきたジーンズやTシャツ、スニーカー、サングラスなどを売り飛ばしてお金に換えていきました(笑)。

もうお金も持ち物もほとんどなくて、時間だけがたっぷりある。失うものは命以外なにもないんです。限りなくゼロの状態になった時、これが本当の自由だ、と強烈に感じました。

──何もないことで絶望するのではなく、自由を感じたんですね。

そう、自由になるんです。一人の人間が生きていくのに必要なものなんて、ほんのわずかです。だから、失敗を恐れなくなりました。失敗して何もなくなっても、この自由な状態に戻るだけ。だったら、思いきりやればいいと思えるようになったんです。

『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』はインドの経験がなかったら、作れなかったでしょう。私はそれまで、映画の現場で下積みをしたこともなかったんです。それでも、「なんとかなる」と思って、4年かけて1本の映画を作り上げられた。それは、失敗してもいいからとにかくやってみよう、という勇気を持てたからだと思います。

人間が一番面白い

──映画は最初、佐々木さんが手持ちのデジタルカメラで撮影し、気軽な気持ちで制作を始めたそうですね。

そうなんです。もともとはNHKの教育番組の取材で、ハーブとドロシーに出合いました。そこで二人の話にものすごく感動し、彼らが成し遂げたのは歴史的な偉業だとわかってきたんです。この物語を一人でも多くの人に伝えたい! と強く思いました。

でも、1時間のドキュメンタリー番組にするのは、少し違うなと。日本のテレビドキュメンタリーの仕事をしてきて、テレビの限界を感じていたこともあり、それじゃあ自分の作品として作るしかない、と思ったのがきっかけですね。
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構成=崎谷実穂 イラスト=Willa Gebbie

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