ビジネス

2019.07.28

日本が「中国買い、韓国売り」を打ち出す理由とは

日本企業が中国と韓国で行うM&Aに変化の兆しが現れてきた。

米国と中国が互いの製品に追加関税をかけ合う貿易摩擦によって、中国経済が減速しており、日本企業にも影響が広がってきた。

韓国では徴用工問題に加え、半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出規制に踏み切った日本に対し、文在寅大統領が対抗措置を取る可能性に言及したほか、WTO(世界貿易機関)への提訴の検討を始めた。

こうした環境の中、2019年に入って現在(7月8日)までに日本企業が中国企業を買収した件数が6件となり、4年ぶりの高い水準となった。2015年以降、譲渡が買収を上回っていたが、2019年の現状は買収と譲渡の件数が並んでおり、厳しい経済情勢にもかかわらず、中国国内でビジネスを拡大するためのM&Aに前向きな日本企業の姿が浮かび上がってきた。

一方、韓国では2010年以降、買収が譲渡を上回っていた(2015年は同数)が、現時点では譲渡が買収を上回る状況になっており、「中国買い、韓国売り」が鮮明になった。

中国企業の買収が増加

東証の適時開示情報を基に経営権の異動を伴うM&A案件(グループ内再編を除く)について、M&A online編集部が集計した。

2019年現時点での中国企業に対するM&Aは件数が12件(買収6件、譲渡6件)で、金額は約40億円だった。2019年現時点での金額トップはFHTホールディングスによるヘルスケア事業の上海蓉勤健康管理の子会社化。

FHTホールディングスは2018年10月に中国でヘルスケア事業を展開するため現地子会社(上海市)を設立しており、上海蓉勤健康管理を子会社化することで、中国でのヘルスケア事業拡大につなげる。

2位はアルプス物流による兆普電子有限公司の子会社化で、兆普電子の建物を活用して同地域における物流サービスの基盤強化と事業の効率化を目指す。

3位はアルファによる中国自動車部品メーカー广东埃德伟控汽车部件の子会社化で、将来の増産に備えるという。3社とも中国でのビジネス拡大を目的に現地企業を子会社化した。


(日本企業による中国企業のM&A件数。赤色は買収、青色は譲渡)

韓国事業からの撤退も

一方、韓国のM&A状況は件数が3件(買収1件、譲渡2件)で、金額は約13億円だった。2019年現時点での金額トップはオプトホールディングによるインターネット広告の韓国子会社eMFORCEの譲渡。同社は韓国事業から手を引き、デジタルシフトが加速する日本国内のマーケティング事業に注力するという。

2位は内外トランスラインによる韓国物流倉庫会社の韓進海運新港物流センターの子会社化で、3位はワールドによる衣料品子会社World Koreaの譲渡だった。

日韓関係、米中の貿易摩擦はいずれも先行きが見通せない状況だが、日韓関係は感情的な問題も加わり、信頼回復には長い時間がかかりそう。一方、米中の貿易摩擦は6月に開催されたG20大阪での米中首脳会談で、米国が関税の追加引き上げを行わないことで合意したことから、日韓関係よりも先行きは明るいように見える。

そもそも中国に対しては「中国メーカーからの引き合いはものすごい勢いできている。中国は必ず伸びる」(永守重信日本電産の会長)との声もあり、ビジネスの拡大には前向きな空気がある。

今後も日本企業による「中国買い、韓国売り」は続くだろうか。2019年後半は消費税率の引き上げによる景気への影響が心配されており、日本企業は難しい判断に迫られそうだ。


(日本企業による韓国企業のM&A件数。赤色は買収、青色は譲渡)

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文=M&A Online編集部

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