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2019.07.25 15:00

ビッグデータ活用で病気の再発を防ぐ。医療費削減に取り組む、名古屋大発スタートアップ

PREVENTの萩原悠太

PREVENTの萩原悠太

「日本のヘルスケア産業は、ダイエットをはじめとした健康に関心の高い人をより健康にするサービスが主流です。たとえば、歩くとポイントが貯まったり、運動をたくさんするとクオカードをもらえるキャンペーンがありますが、上位の人たちは健康自慢な人ばかり。本当に必要な人たちに対してサービスを提供しなければ社会課題の解決にはならない」

こう語るのは、名古屋大学医学部発のスタートアップ、PREVENTの萩原悠太だ。経済産業省の推計値によれば、ヘルスケア産業は2016年の約25兆円から2025年には33兆円にまで成長すると予測される注目産業。

萩原は、予防医学の研究者になることを夢見て、理学療法士として病院で働いていた。そこで直面したのは、いくら優れた研究や医療従事者が揃っていても病気が重症化した場合、再発を防ぐことが難しい現実だ。

たとえば、脳梗塞を発症した患者は、5年以内に30%も再発する。原因のひとつが生活習慣。脳梗塞などの動脈硬化が原因で起こる病気は、生活習慣により全身の動脈硬化が進み、一度発症した後も、生活習慣が改善されず再発する。

心筋梗塞が発症し、生活習慣を改善するために、フィットネスクラブへ入会しようと思っても、心疾患のため断られることもあるという。

ビッグデータで疾病を予測シミュレーション



萩原らは、企業の健康保険組合と提携し、これまで眠っていた組合員の健康診断などのビックデータを有効活用している。

「ビッグデータを利用し、将来の医療費や発症予測のデータ解析をしています。現在、我々のクライアントである健康保険組合には過去数年分の健康診断データやレセプトのビッグデータがあります。名古屋大学と共同で開発したアルゴリズムを用いて、予測シミュレーションを行っています。そのなかで病気の発症リスクが高い組合員に対し重症化予防の健康づくりプログラムを提供している」(萩原)

具体的には、「Mystar」と名付けられたスマートフォンのアプリやウエアラブル端末などを使い、脈拍や歩数、塩分摂取量などのライフログを記録する。アプリを通じて医療従事者とチャットや電話での面談を行い、プログラムの効果を高くしている。また、医学的な研究結果やデータに基づいた教材を提供し、正しい知識を得ることもできる。

実際にPREVENTの前身である名古屋大学大学院医学系研究科(保健学)山田研究室では、生活習慣改善プログラムを実施した脳梗塞患者の3年以内の再発率は3%と、通常の10分の1まで抑えられたという。Mystarではこの研究成果を応用した生活習慣改善サポートを提供している。
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文=本多カツヒロ、写真=小田駿一

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