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2019.07.25

ノルウェーメディア、ロシア当局を提訴 LGBT記事検閲を巡り

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ノルウェーの小さなニュースサイトが、同社コンテンツの国内閲覧を禁止したロシアの決定を覆すため、同国の通信・情報技術・マスコミ監督庁(ロスコムナゾール)を提訴した。

ノルウェー・キルケネスに本社を置くニュースサイト「バレンツ・オブザーバー(Barents Observer)」は、同国の北部からスウェーデン、フィンランド、ロシアにまたがるバレンツ地域のニュースを英語とロシア語で配信している。

ロシアはLGBT記事が情報法に違反と主張

ロスコムナゾールによる検閲で問題視されたのは、今年1月に公開された記事「From suicide attempts to happiness and Sámi pride(自殺未遂から幸せ、サーミ人としての誇りへ)」のロシア語版だ。同記事は、長年にわたる心の病と2度の自殺未遂を乗り越え、勇気を振り絞って自らの体験について語り始めた少数民族サーミの男性同性愛者、ダン・エリクソンに関するもので、スウェーデンメディアの記事が基となっている。

エリクソンは現在、性的少数者(LGBT)の若者を支援し、他者の助けとなるために自身の体験についてオープンに語っている。ロスコムナゾールは、同記事がロシアの情報関連法に違反し、自殺を助長していると主張。バレンツ・オブザーバーのウェブサイトは2月以降、ロシアで閲覧不可能になっている。

バレンツ・オブザーバーの編集者を務めるトーマス・ニルセンは「ダン・エリクソンへのインタビューは、他の人々のトラウマ的なタブー克服を助けるものであり、自殺の助長とは正反対だ」と述べた。ニルセンは、検閲の真の理由はこの記事ではないと考えている。「この記事でなければ他の記事が問題になっていただろう。私たちは、ロシア当局の手が及ばない国外サーバーを使ってロシア語でニュースを配信する数少ないメディアの一つだ」

国境を越えるジャーナリズムの増加

ニルセンは、17年前にバレンツ・オブザーバーを立ち上げた設立者の一人。同サイトは開設以降、北欧とロシア両方の読者に対し、地域に関するニュースを多数配信してきた。

ノルウェーとロシアの陸の国境は約200キロの長さがあるが、道路での越境地点はストールスコーグにしかない。海上の国境線は、バランゲルフィヨルドや、バレンツ海・北極海の排他的経済水域(EEZ)の間にある。

「北極海で見られる劇的な変化と、急速な気候変動、深刻な環境問題を考えると、この地域からの報道を独立した形でロシア語で提供できる新聞があることが、かつてないほど重要になっている」とニルセンは述べている。
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編集=遠藤宗生

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