6歳の少女の優しさが原動力。大学生が目指した「児童買春がない社会」

NPO法人かものはしプロジェクト 村田早耶香


──カンボジアでの活動が終了し、今はどのようなことをされているのでしょうか?

今、世界で児童買春の被害者が一番多いのはインドです。インドでの問題解決のボトルネックは有罪判決率の低さにあります。

特に、貧困層の多い農村地域から子どもや女性を買い付け、売春宿のあるムンバイなどの大都市に売り飛ばす「トラフィッカー」と呼ばれる仲介者は、逮捕してもなかなか有罪判決にならない。

彼らは、州をまたいだ警察の連携が難しいことから、適切に処罰されてきませんでした。有罪にするためには、被害者が裁判で証言をする必要があります。被害にあった当事者の中で、戦いたいという意思のある方に対して、裁判で証言を行えるようサポートをしています。

被害者たちは救出されても、社会復帰が難しいんです。売春宿で身も心も傷つけられて、トラウマに苦しんでいるのに、村に帰ると偏見から「汚い仕事をしていた」などと言われてしまう。

仕事につくことはおろか、普通に生活するのも難しい状況です。こうしたサバイバーたちが精神的に回復できるよう、カウンセリングやダンスを使ったセラピーを提供しています。政府の補償制度を申請するサポートなどもします。

また、有罪判決率の低さがここにも関係していて、村で自分を売った人が処罰されず普通に暮らしていたりするんです。これはひどい心理的苦痛ですよね。

そのため、社会の仕組みを変える活動も行っていて、サバイバーリーダーたちが行っている、人身売買を取り締まる法案の成立を後押しする活動を応援しています。

誰もが未来を選べる世界

──解決に向けた前向きな変化に寄与できているんですね。

インドでは被害者の中から、「私のような思いをする人をもう出したくない」とリーダーシップをとって活動する人たちが出てきています。子どもたちが被害に遭わないように学校で予防の啓発活動をしたり、新たに村に戻ってきた被害者のサポートをしたりしているんです。彼女たちが、頼もしいリーダーに育っていることに勇気づけられますね。

当事者運動を支援していると、人の本質的な優しさ、強さにふれ、胸を打たれることがあります。人としての尊厳を踏みにじられたにもかかわらず、経験を糧にして周りの人を助けようとする。それは本当にすごいことです。

インドのサバイバーリーダーたちは先程の法案成立に向けて、世の中を動かそうとしています。昨年は国会議員と一緒にプレスカンファレンスを行い、法案を通してほしいと社会にアピールしました。そうした姿を見ると、自分たちも励まされ、この活動をしてきてよかったと思えます。

インドは児童買春の被害者の総数が相当多いので、インドの問題を解決すれば被害者はだいぶ減るでしょう。そうしたら、子どもの商業的性的搾取以外でも、生まれた状況に関わらず誰もが自分の未来を選べる世界にするために、ミッションを広げて活動していきたいですね。


むらた・さやか◎認定特定非営利活動法人かものはしプロジェクト共同創業者。1981年、東京都出身。大学在学中に児童買春の問題を知り、2002年かものはしプロジェクトを発足。カンボジアで最貧困層女性の自立支援などを行う活動や警察支援を実施。カンボジアでの被害者が減少したため、現在はインドにて活動。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」リーダーシップ部門や国際青年会議所主催TOYP、女性起業家大賞優秀賞など多数受賞。

構成=崎谷実穂 イラスト=Willa Gebbie

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