「社会とは同化できない自分」に向き合うアーティストであれ|北川フラム #30UNDER30

アートディレクター 北川フラム


いま、瀬戸内国際芸術祭をやっていますが、アートは極めてお金と手間がかかります。赤ちゃんみたいなものです。でも、だからこそ地域の人も含めて、みんなで「赤ん坊を守っていくんだ」という連帯感が生まれます。アーティストと地元の人、一般の人たちが融合し、手間がかかって役にたたないからゆえの面白さをみんなで守り始める。そして地域が変わっていきます。

アーティストも一連の取り組みを通じて、まるで変わっていきますね。

先ほど「宛名のないラブレター」の話をしましたが、日本はいま、世界最大の均質空間になっています。マーケティングや分析さえすればいいとなっている。構造的な超・競争社会が繰り広げられています。そんななか、アーティスト自身も展望が見えない離島や豪雪地で、「自分にも何かできる」と思えたほうが嬉しいはずだと思うんです。ぼくは、そういう場所自体をつくる仕事をやりたかった。

面白いと思えば国籍を問わず、世界中からアーティストが来てくれればいい。そう思って始めた瀬戸内国際芸術祭は結果的に、欧米の旅行雑誌をはじめさまざまなメディアで「世界で今年行くべき場所」の上位に選ばれるようになりました。

優れたアーティストは「違うことの面白さ」を体験させてくれる

「優れたアートとは何か」と聞かれたら、ぼくは一言「面白いもの」と答えます。正確に言い表すなら、「いままでにない、新しい体験をさせてくれるもの」です。
 
 美術は「1+1=2」ではない世界です。人と違っていることが面白いと言われる。そこが美術の最高の魅力です。全員違っていいわけ。違う人間が生きているということを表しているのが美術なのだから。

ぼくは、「美術は生理だ」と思っています。好き嫌いとか、いろいろな意味での生理ですね。生理のなかにある違いこそ面白いわけで、美術を通じて新たにそれを体験させてくれるアーティストを、ぼくはいいなと思う。

20代の人たちとは50歳近く歳が離れていますが、ぼくは常に、彼らの行動の根拠を分かりたいと思います。生まれも育ちも違うから当然、考え方も違う。その人たちが集まり、共に生きているわけだから、同じ土俵に乗らないと何もできないと思うんです。

若い人へのアドバイスがあるとすれば、まずは自分の中にある「社会とは同化できない自分」、そこにちゃんと向き合って作品を生み出すアーティストであってほしい。「自分は社会の中心とは異なる生理だ」と自覚すること。同化できないから、違うから頑張れるんです。そして、ぜひ美術を続けてもらいたい。面白さって、それなりに続けないと出てきません。


きたがわ・ふらむ◎1946年、新潟県高田市(現上越市)生まれ。アートフロントギャラリー主宰。東京芸術大学美術学部卒業。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」などの総合ディレクターを務めるほか、企画展のプロデュースや美術・文化評論の執筆など活動は多岐にわたる。長年の文化活動は国内外で広く認められており、2017年には朝日賞を受賞、2018年には文化功労者に選出された。


北川フラムが「アート部門」のアドバイザリーボードとして参加した「30 UNDER 30 JAPAN 2019」の受賞者は、8月23日に特設サイト上で発表。世界を変える30歳未満30人の日本人のインタビューを随時公開する。


昨年受賞者、「スーパーオーガニズム」でボーカルをつとめる野口オロノや、昨年7月にヤフーへの連結子会社化を発表した、レシビ動画「クラシル」を運営するdelyの代表取締役・堀江裕介に続くのは誰だーー。

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

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