棄てる金ならもらってしまえ! 瀬戸際の女たちの横領作戦


夫の高い収入に依存してきたブリジットは、清掃員になって早々、ロッカールームにいる時にかかってきた友人からの電話に、必死で状況を誤摩化しながら対応。破産寸前でも対面を保とうとするセレブマダムの滑稽さが滲み出た皮肉な場面だ。

しかし彼女は、転んでもタダでは起きない女性だった。FRBで毎日100万ドルもの古い紙幣が廃棄されているのを知り、行内の金の動きを把握したブリジットは、シュレッダーにかけられる直前の札束を盗むことを思いつく。

「廃棄されるものの再利用だからリサイクルよ」という変な正当化や、非常にアナログで危なっかしい計画がなかなか笑えるが、経済的に背水の陣の彼女は大真面目だ。

一人ではできないその犯行に、ブリジットは同じ清掃員の女性二人を引き入れる。一人目のニーナ(クイーン・ラティファ)は、二人の息子と暮らす黒人のシングルマザー。暮らし向きは楽ではないが堅実に生きてきた彼女は、最初は拒否するものの、息子を良い私立学校に入れるため、結局片棒をかつぐことに。

二人目は、いつもイヤホンで音楽を聴きながら一人でノリノリの、ちょっといかれた感じの若いジャッキー(ケイティ・ホームズ)。いかにも現代っ子で明るい彼女は、何の罪悪感もなくすんなり共犯となることに同意。恋人とキャンピングカー暮らしのジャッキーも、今の貧乏生活から抜け出したいのだ。

「金が欲しい!」という一点で

リッチな白人たちのコミュニティに安住してきたブリジット、黒人差別と貧困の中で頑張ってきたニーナ、ホワイト・トラッシュ(近年増加した白人の低所得者層)のジャッキー。階層も世代も文化もばらばらの3人。本来なら決して出会うことのない、出会ったとしても理解はし合えないだろう別々の世界に住まう女たちが、「金が欲しい!」という一点で手を組むところが面白い。

バレたら全員刑務所行きとなる大金横領。息子たちが施設に預けられるだろうニーナが「捕まったらあんたを殺すからね」とブリジットに圧をかければ、ジャッキーにはドラッグを当分自粛するようあとの二人が釘を刺すなど、互いに牽制し合いつつも一蓮托生の仲となっていく。

この作品が公開されたのは、リーマンショックの2008年。その前年には、サブプライム住宅ローン危機など資産の大暴落が起こっている。

おそらくその打撃を一番大きく受けているのはブリジットだ。金融政策の遅れも彼女の窮状に繋がっていると考えれば、銀行のダブついた金の一部をくすねるのは、一個人の小さな反撃とも言えよう。
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文=大野 左紀子

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