棄てる金ならもらってしまえ! 瀬戸際の女たちの横領作戦

ロサンゼルスでの『Mad Money』プレミアにて(2008年1月9日)。左からカーリー・クーリ監督、クイーン・ラティファ、ケイティ・ホームズ、ダイアン・キートン(Photo by Lester Cohen/WireImage)


ブリジットの考案した横領計画がどれだけ綱渡り的かは実際にDVDで確かめて頂くとして、そのスリルに満ちた作戦はまんまと成功。トイレで札束を下着の中に押し込みすまして退出した後、ブリジットの家のベッドの上で、お札を宙に放り投げてはしゃぐ場面には、見ているこちらもカタルシスを感じてしまう。

味をしめた彼女たちは、ブリジットの夫やジャッキーの恋人も巻き込んで犯行を続行、6カ月後にはとりあえず十分な金を手にするものの、そこでやめることはできなかった。金の魔力にとりつかれたからだ。

だが、盗みにすっかり慣れた頃に小さな油断からミスは起こるもので、ヒヤリとする場面が何度か訪れる。二転三転の中で、3人の感情のやりとりも密になっていく。

女の「強さ」と男の「弱さ」

興味深いのは、女性たちの個性にはそれぞれなりの「強さ」が表現されているのに対し、脇で登場する男たちには「弱さ」があてがわれていることだ。

剛胆なブリジットに押されがちな優柔不断の夫。ニーナに一目惚れしているお調子者だが根は優しいボディチェックの係員。ジャッキーにぞっこんだけど少々頭の悪い恋人。そして、100年破られていないというセキュリティシステムが自慢の種なのに、あっさり裏を掻かれる主任。

発覚後、逃亡先のホテルで潜入捜査官と対面する時の、ブランドものに身を固めたブリジットの堂々たる肝の座りっぷりが見事だ。ある程度の小金を得て満足しないところも、逆に欲望に正直ですがすがしくさえ思える。

窮地に立った女たちが男たちを転がしながら、男がコントロールしてきた金の世界の掟を破っていくという大それた試み。「このまま逃げ切れ!」と観客が彼女たちに声援を送りたくなるのは、その突き抜けた爽快さゆえだろう。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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