創業板や新三板に加えて最近、中国の証券市場関係者や投資家から大きな注目を集めている市場が「科創板」である。習近平の肝いりで、この春の全国人民代表大会では李克強首相の政府活動報告に盛り込まれた。6月から本格稼働と伝えられている。
科創板は上海証券取引所に新設されるハイテク新興企業に特化した市場。中国版のユニコーン創出を目指している。中国版NASDAQとも称されている。ベンチャー企業のニーズを考慮して多議決権種類株式を認め、審査ではCSRCが一歩後ろに下がり取引所を主とする。中国預託証券を活用することで、海外に上場している中国企業を国内に呼び込む目的もありそうだ。重点対象分野は、次世代ITやビッグデータ、スマート産業、新素材、新エネルギー、環境・省エネ、バイオ等々である。どこかで聞いたことがある。そう、「中国製造2025」である。トランプの怒声に怯むような習近平ではなさそうだ。
日中フォーラムでも、中国側からは常に「科創板」の三文字が呪文のように唱えられていた。日本からの投資も可能になりそうなので、ちょっとしたブームを呼ぶかもしれない。
フォーラムでは、東証と上海取引所とのETF相互上場や証券業協会ベースの人材と情報交流の促進が約束され、友好ムードに包まれていた。
日本の外務省高官が漏らす。「我が国が、ヨーロッパからも中国からも同時に秋波を送られる時代が来るとは思ってもみなかった」。貿易面の課題は抱えるものの、米国とも日本は関係が良い。令和は絶好の外交環境でスタートした。
半面、中国の外交を取り巻く環境は厳しい。欧米先進諸国は警戒信号の色を深めている。
100年前を舞台にする件の横光の小説。彼は作中人物にこう言わせている。
「世の中の識者は、世界はたしかに中国人を中心にして回転しているということぐらいは知っていますよ。しかし、それだからこそ、また世界は共同に中国人を敵に回して争っていかなければならぬのだと思いますね」
川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。