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現場からの医療改革

Chanin Wardkhian / Getty Images

「いけないとは分かっていますが、独居の高齢者の治療は手を抜くことがあります」

千葉県内の病院に勤務する内科医の知人は語る。彼は病棟や外来業務に加え、当直もする。当直中には心停止の状態で運ばれてくる患者もいる。

「心臓マッサージなど蘇生措置は、患者に家族がいない場合、早く切り上げてしまう」らしい。

心停止で病院に運ばれる高齢患者の多くは心臓マッサージや気管内挿管・人工呼吸などの蘇生措置を行っても救命できない。このような措置は患者に苦痛やダメージを与える。この医師は「どうせ助からないのだから、患者にとって楽で、自分にとっても手間がかかならいようにしたい」と考えても不思議ではない。

ただ、家族がいたら、その手前、できるだけのことをせざるを得ない。「あとで遺族から訴えられたら大変だ」と自己保身にはかるらしい。

衝撃の医師アンケート結果

社会は患者中心の医療を求めるが、現場はそんなに単純ではない。患者が亡くなれば、医師が相手をするのは遺族だ。患者にとってベストでないと思っても、家族の意向は無視できない。この医師の対応は、私にとっても納得できる。

では、どの程度の医師が、このような感覚を持っているのだろうか。また、ここまで極端なケースでない場合、医師はどのような対応をとるだろうか。

筆者が主宰するNPO法人医療ガバナンス研究所の研究チームは、株式会社メディウェルの協力を得て、ウェブ上でアンケート調査を実施した。主任研究者は津田健司医師だ。メディエル社は医師紹介を業務としており、医師専用のメールマガジンを配信している。

我々が準備したアンケート調査をメルマガで配信してもらい、会員の医師から回答を得た。

この調査では、肝硬変を抱える65歳男性が肺炎になったケース、認知症を抱える78歳の女性が肺炎になったケース、糖尿病を抱えた70歳女性が下肢の壊疽を発症したケースの3つを対象として医師にいくつかの医療行為の実施の判断を迫った。

今回の研究は「ランダム化コントール試験」という医学研究では最も厳密な方法を採用した。いずれのケースでも家族の有無だけが異なる2つのシナリオを準備した。しかしながら、医師にはいずれか一つのシナリオだけが無作為に提示され、前述の項目について施行するか否か回答を求めた。参加した医師は450人だ。

文=上昌広

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