キャリア・教育

2019.07.24 12:00

退路を断ち、小出監督にすがった若き頃の選択|高橋尚子 #30UNDER30


でも、「努力する素質はある」と言われたことも覚えています。身体の素質は先天的なものですが、努力の素質は常に失くすことができてしまうもの。継続しなければ消えてしまいます。

身体的な素質がない私だからこそ、努力の素質があると言われたことがすごくうれしかった。だからそれを失くさないために、努力するサイクルが生まれました。「プラス3本」走るから始まり、人より自主練習を2時間近くする、ということを続けて、目標達成を積み重ねたことで金メダルが獲れたのだと思います。「努力の素質」は、きっと私のように「自分には(身体的な)才能がない」と思っている人の中にも眠り、開花を待っているはずです。

このように、陸上を通じて得たものはたくさんあります。でもそれは「オリンピックの金メダル」などの形あるものばかりではありません。金メダルはモノとしては残りますが、自分の中ではどんどん色あせてくる。過去のことなので、時間が経てば「私は金メダルを持っている」なんて通用しません。

一方で、輝きを増していくのは、そこで培った人とのつながり。前を向いて人生を続けていく上で、やっぱり自分が得た一番大事なものは人だ、という想いが強くなっています。

私もそうでしたが、人とのふれあいの機会が多いのってやっぱり30歳くらいまでなのかな、と。学校で知り合う、会社で知り合う、その人の輪が広がっていく、そういう時期ですよね。

だからこそ、そのタイミングで失敗を恐れずに、全力を尽くして、経験という財産を得てほしい。結果も重要ですが、その過程で生まれるつながりが、仕事でも、人生のライフプランにおいても、大きな力になるのだと思います。




たかはし・なおこ◎中学から本格的に陸上競技を始め、県立岐阜商業高校、大阪学院大学を経て実業団へ。1998年名古屋国際女子マラソンで初優勝、以来マラソン6連勝。2000年シドニー五輪金メダルを獲得し、同年国民栄誉賞受賞。01年ベルリンでは女性として初めて2時間20分を切る世界記録(当時)を樹立する。08年10月現役引退を発表。 公益財団法人日本陸上競技連盟 理事、公益財団法人日本オリンピック委員会 理事、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アスリート委員会委員長、一般社団法人パラスポーツ推進ネットワーク理事長。その他「高橋尚子のスマイル アフリカ プロジェクト」や環境活動、スポーツキャスター、JICAオフィシャルサポーターなどで活躍中。

文=朽木誠一郎 写真=小田駿一 ヘアメイク=小森真樹(337inc.)

タグ:

連載

30 UNDER 30 2019

ForbesBrandVoice

人気記事